月別アーカイブ: 2012年7月

放課後の向うがわⅡ-8

「理事長、この子、憶えてます?」
「……」
「残念ね、美里。
 どうやらあなた、記憶に残ってないみたい。
 もっとも、そんな格好だもんね。
 下半身裸の女生徒なんて、記憶の中の顔と繋がらないかも。
 理事長。
 ちょっと前に、転入生の面接をなさったでしょ。
 その子ですよ」
「岩城先生。
 どうして……。
 どうしてその子まで」
「あらやだ。
 わたしが、この子をどうにかしたとでも?
 この子は、自分でパンツまで脱いだんですよ。
 わたしと同んなじ姿になりたいって。
 それに……。
 理事長を吊り上げたのも、この子なんです」
「そんな……」

 理事長と目が合った。
 わたしは、かぶりを振った。
 確かに吊り上げたのはわたしだけど……。
 吊り荷が理事長だったなんて、知らなかったんだもの。

「ほら、美里。
 見てごらん、このお腹。
 スゴい括れでしょ」

 背中で両腕を戒めてる縄が、ウェストの両脇から前に回ってた。
 縄は、張り出した腰骨に食いこみながら絞られ、股間で1本に束ねられてる。
 撚れ絡む縄は、そのまま脚の間を通って、梁まで伸びてた。
 つまり、理事長の全体重が、その縄の束に掛かってる。
 キツく食いこむ縄で、理事長のお腹は、V字を逆にした形に括れてた。

「ほら、この腹筋」

 先生の指が、理事長のヘソの脇をなぞった。

「あぅっ」

 理事長の身体がうねり、縄を渡した梁が軋んだ。
 お臍を挾んで両側に、筋肉の割れ目が浮きあがった。

「さすがね。
 水泳や乗馬で鍛えてらっしゃるから。
 女性のこんなお腹、初めて見たわ」
「く、苦しい……。
 下ろして」
「眠らされてる間に縛られて……。
 気がついたら逆さ吊り。
 さぞ、驚いたでしょうね。
 でも、縛るの、けっこうタイヘンだったんですよ。
 縛りってのは、縛られる側の協力が無いと、とっても難しいの。
 やっと完成したオブジェなんだから……。
 そう簡単には下ろせません。
 美里、カメラ取って来て」

 先生は、壁際のテーブルを指さした。
 例の、ポラロイドカメラが置かれたテーブル。
 先生の指先を辿った理事長の視線が、わたしを向いた。

「あなた、止めて。
 止めさせて!」
「あら、理事長先生。
 この子の名前、覚えてらっしゃらないの?
 こないだ、面接したばっかりでしょ?」
「ミサトさん、お願いだから、止めて」
「はは。
 名前の方は、さっきわたしが呼んでたものね。
 苗字は?」
「……、ごめんなさい」
「美里、カメラ。
 出来上がりを、モデルさんにも見て欲しいから……。
 ポラロイドね」

 わたしは、縋りつく理事長の視線を逃れるように、後ずさった。
 視線の呪縛を逃れると、身を翻して、デスク前に立った。
 ポラロイドカメラは、厚い洋書みたいな形に折り畳まれてた。
 銀色の躯体に、茶色い革が張られてる。
 取り上げると、ずっしりと重い。
 わたしは、冷たいカメラを胸元に抱きしめた。
 あの、木造校舎の記憶を抱くように。

「何してるの。
 早く持って来て」

 胸元に乳飲み子を抱えるようにして、先生の元に戻った。
 なぜ、理事長ではなく、あけみ先生の言うことを聞いたのか……。
 わたしにも、よくわからない。
 でも、あの放課後の向うがわにあった世界が……。
 あのときのわたしを支配してた。
 だから、あの世界を一緒に体験した先生が、わたしにとっては特別な人だったのかも。

 先生は、わたしからカメラを受け取ると……。
 お弁当箱にライターが貼り付いたみたいな出っ張りに手をかけた。
 その出っ張りを、マジシャンみたいな手つきで引き上げると……。
 折り畳まれてたカメラは、一瞬にして立体的なフォルムを獲得した。

「今日は、ストロボも要るわね。
 美里、机の引き出し。
 早く行って。
 そう、そこの一番上。
 それそれ。
 今、手に取ったやつ。
 持ってきて」

 それは、薄青い、アイスキャンディみたいな形をしていた。
 キャンディの中に、電球が並んでる。

「フラッシュバーって云うのよ」

 先生は、バーを電球にかざした。

「綺麗でしょ。
 電球が、裏と表に5つずつ並んでる。
 この電球はね……。
 発光すると、ひとつずつ潰れるの。
 つまり、10回しか使えないストロボね。
 儚ないっていうか、潔いいって云うか……。
 昔の機械って、愛しいよね。
 ポラロイドのフィルムだって……。
 間違ってシャッター押したら、1枚使っちゃうわけだし」

 先生は、キャンディみたいなバーを、カメラの上に、横向きにセットした。
 バーの長さはカメラの横幅と同じだった。
 儚い電球を装着したカメラは、オモチャのロボットみたいに見えた。

「さ、モデルさん。
 カメラの準備が出来たわよ。
 こっち向いて」
「いや……」

 理事長は、カメラから顔を背けた。
 逆立った長い髪が揺れた。

「素直じゃないわね」

 先生は、背けた顔の方に回りこんだ。
 理事長の顔が、また逃げた。

「もう。
 さっきも言ったでしょ。
 このストロボ、無駄玉は打てないのよ。
 じっとして」

 もちろん、理事長はその言葉に従わなかった。
 先生の動く方向とは逆に、顔を振り向ける。

「頭にきた。
 そういう悪いモデルさんは、お仕置きね」

 先生は、構えてたカメラを下ろすと、理事長に近づいた。
 逆さに吊られた理事長は、顔を背けることは出来ても……。
 体ごと捻ることは出来ない。
 もちろん、すぐ脇に立つ先生から逃れるすべはない。

「美里、こっち来てごらん。
 ほら、綺麗なおっぱい。
 でも、可哀想にね。
 こんなにひしゃげて」

 乳房の周りを、縄が締めつけてた。
 上下に幾筋も走る縄で、乳房は生クリームの絞り袋みたいに潰れてる。
 でも逆に、砲弾みたいな形に尖ってた。

「それほど大きくは無いけど……。
 ほんとに綺麗なおっぱい。
 乳首も、濃い目のファンデみたいな肌色だし。
 遊んでるはずなのにね。
 ほら、乳輪だって……。
 朧月みたい。
 綺麗な満月。
 なんだか、腹が立ってくるわね。
 理事長、このおっぱい、自慢なんでしょ?」

 先生は、理事長の顔を見下ろした。
 理事長は、顔を背けたままだった。

「答えない気?
 お立場がわかってらっしゃらないようね。
 逆さに吊られながら反抗的な態度を取ったら、どうなるか……。
 教えてさしあげますわ」

 先生の片手が、理事長の乳房に伸びた。
 指先が、乳首を摘む。
 力が籠もった。
 蛍が灯るように、爪が白く色を変えた。

「痛いぃぃ」

 理事長が髪を振り立てた。

「悪い子の乳首は、グリグリ」

 先生は、摘んだ指先を左右に捻った。
 そのまま、引っ張りあげる。

「ほーら、伸びちゃった。
 理事長、形が崩れちゃいますよ」
「止めてぇ」
「じゃ、言うこと聞きます?」

 先生の指先が、乳首を離れた。

「あれ?
 理事長。
 こっちの乳首、起ってません?」
「違います!」
「違わないわぁ。
 美里、ほら見てごらん。
 同じじゃないわよね。
 反対の乳首と」

 言われてみればって感じだけど……。
 引っ張られた乳首は、もう片方より突き出て見えた。

「起ってるでしょ」

 わたしは、思わずうなずいてた。

「ウソよ……」
「まだ、そんなこと言ってるの。
 そういう子には……。
 本格的なお仕置きが必要ね。
 いいこと思いついたわ」

 先生は、ウィンチの机の間を縫って、部屋の奥に向かった。
 電球から遠ざかった背中が、薄暗がりに沈んでいく。

「この部屋、ほんとに写真部の部室に打って付けなのよ。
 水が出るんですもの。
 現場監督に教えてもらったんだけど……。
 ここに、カウンターバーが付く予定だったらしいの。
 ほんとにふざけた理事会室よね。
 残念ながら、カウンターの搬入前に、工事が止まっちゃったけど……。
 シンクだけは、こうして付けられてたってわけ。
 さらに、この奥には……。
 いろんな楽しいガラクタが転がってるの。
 早い話、物置代わりに使ってるってことよね。
 不要になったガラクタが、ここに押し込められて来たわけ。
 3年も経てば、いろいろ集まるわよ。
 ほら、畳まであるんだから」

 先生の指の先は、壁際に立てかけられた畳を指してた。
 畳は、小部屋を敷き詰めるくらいの枚数があった。

「どうしてこのロココ調の建物に、畳があると思う?
 現場監督に設計図を見せてもらって、呆れたわよ。
 理事長室には、茶室があったのよ。
 現場監督には……。
 ヨーロッパで知り合った友人を招待するときに使う大事な部屋だって、得々と語ってたそうよ。
 早い話、驚かせて自慢したかったんでしょ。
 で、その茶室に一旦入れた畳を、総入れ替えしたのね。
 い草の色合いが気に入らないとかでさ。
 でもこの畳、サイズが微妙に市販品と違ってるらしいの。
 茶室って言っても、ロココ調の尖塔部分に、無理やりくっつけた部屋だから……。
 日本間の寸法とは違うのね。
 だから畳も、部屋に合わせた特注品ってこと。
 当然、返品も利かない。
 で、一部屋分の畳が無駄になっちゃったってわけ。
 サイズが違うから、茶道部の部室とかに払い下げるわけにもいかないし。
 結局この部屋に投げ込まれたまま……。
 せっかくのい草の色も、すっかり色褪せちゃったってわけ。
 ほんと、宝の持ち腐れってこのことよね。
 そうでしょ、理事長?」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は7/13まで連続掲載、以後毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


緊縛桟敷DVD・昭和緊縛史CD 新作発表

コンテンツ通販にて、杉浦則夫緊縛桟敷DVD-ROMの新作と、
昭和緊縛史CD-ROMの新作が2タイトルづつ発売開始となりました。

 ■緊縛桟敷DVD-ROM
 今回は雪中緊縛を行った美帆が収録されている78巻や
 川上ゆうから絶賛推薦されて出演した
 新谷彩夏が収録されている77巻です。




 ■昭和緊縛史
 大変長らくお待たせいたしました、
 今回の新作にも杉浦則夫撮影手記と
 皆様より頂いた情報をまとめた冊子が付録でついてきます。


放課後の向うがわⅡ-7

 先生は、もう一度瞳を伏せ、手首を返して時計を見た。
 時計を見詰めるメタルフレームの女教師。
 試験監督のようだった。
 ただし、上半身だけ見れば。
 なぜなら、その女教師の下半身は、剥き出しだったから。
 股間には、縄が食いこんでる。
 縄瘤が、肥大したクリトリスのようにも見えた。
 その下で潰されてる本物のクリを想ったとき……。
 わたしの股間が、堪らなく疼いた。
 思わず太腿を擦り合わせる。

「どうしたの?
 おしっこ?」
「い、いいえ」
「ふふ。
 てことは……。
 気分出ちゃってるわけね」
「……」
「そのまま、してみる?
 オナニー。
 見られながらって、スゴくいいわよ。
 転入初日……。
 あなたも、教壇に立って挨拶したでしょ。
 たとえばそのとき……。
 いきなりスカート下ろして、オナニー始めたら、なんて……。
 考えなかった?
 ない?
 ま、そうよね。
 転校生に、そんな余裕なんて無いわよね」

 内腿を、生温い液体が伝うのがわかった。
 命じてほしかった。
 オナニーしなさいって。
 でも先生は、笑窪だけ作って笑うと、視線を機械に戻した。

「こっち来て。
 座学はこれでお終い。
 ここからは、実習よ」

 わたしの脚は、内腿を摺り合わせるように、勝手に歩んだ。

「ほほ。
 スゴい格好ね。
 そんな中学生みたいな体型して、性欲は大人並みってこと?
 ま、あなたの資質は、14年前に見てるから……。
 驚きはしないけど。
 ほら、こっち来なさいって。
 女子高に『技術』の時間は無いけど……。
 今日は、特別講義ね。
 手動ウィンチの操作法。
 これ握って」

 先生は、ドラムの片側に付いたハンドルを指さした。
 ドラムの側面からは、ドラムに沿って金属のアームが伸び……。
 その先に、アームとは直角に、樹脂製らしい黒い握りが付いてる。
 ほんとに、巨大なリールみたいな形だった。

「そう。
 両手じゃなくても大丈夫よ」

 こんなもの握らせる先生の意図が、まったくわからなかった。
 まさか、本当にウィンチの講義じゃあるまいし。

「回してみて。
 逆。
 反対方向。
 そうそう。
 軽いでしょ」

 ハンドルは、軋むことも無く動いた。
 たっぷりと油が差されたような、滑らかな手触りだった。
 でも、ハンドルには、はっきりと荷重が感じられた。
 回すごとに、機械がカチカチと音を立てた。
 梁を渡るロープが、ぴんと張ってた。
 ロープの先は、ビニールシートに隠れてる。
 でもそこには、明らかに吊り荷がある。

「はい、まだよ、まだよ。
 回して回して」

 先生は機械の側を離れ、暗幕のように下がるシートの脇に立っていた。
 先生の位置からは……。
 シートの向うがわ、つまりわたしが引き上げてる吊り荷が、はっきりと見えるはず。

「もう少し」

 先生は片手を頭の脇まで上げ、巻きあげスピードを指示するように、指先を回した。
 下半身だけ剥き出しの姿で。
 わたしは思わず、自分の股間を見下ろしてた。
 真っ白な下腹部に、下向きに生えた陰毛。
 性器は見えない。
 そこがどうなってるかは、触らなくてもわかった。
 どうしようもないほど熱かったから。
 自ら熱を発し、熱い雫を零してる。
 太腿を、雫が伝ってた。
 触らなくてもわかってたけど……。
 触りたかった。
 いやらしく溶け崩れてるおまんこを、思い切り掻き回したかった。
 先生の目は、吊り荷に向いてる。
 片手を腰に当て、掲げたもう一方の手は、頭上で回転してる。
 まるで、工事現場の監督みたい。
 でも……。
 その下半身は裸。
 剥き出しの素っ裸なのよ。

 堪らなくなって、わたしの片手が、下腹部に伸びかけた。

「ストップ!」

 伸びかけた手が、火傷をしたように飛び退いた。
 でも、先生の目は、わたしを見てなかった。
 先生の制止は、ウィンチの巻き上げの方だったの。
 気がつくと、ウィンチから梁へ渡るロープは、さっきよりも強く張ってるみたいだった。
 梁から真下に下がるロープも、棒のように張り切ってる。
 吊り荷の重さを感じさせた。
 止めたハンドルに、心なしか重みを感じた。

「ハンドル、離しても大丈夫よ。
 自動ブレーキが掛かってるから、離しても戻らないの」

 わたしは、恐る恐る黒い握りから手を離した。
 電球の光を返す樹脂の肌に、わたしの汗が光って見えた。
 手を離しても、ハンドルは動かなかった。

「ウィンチの操作実技は、これでお終い。
 簡単でしょ。
 だれでも合格ね」

 先生はシートの向う側から、2,3歩戻ると、シート脇に立った。

「さーて。
 それじゃ、お披露目しましょうか。
 あなたが吊り上げた荷物を」

 先生の手が、ブルーシートに掛かった。
 わたしの瞳を確かめるように見ながら……。
 先生は、マジシャンの手つきでシートを引き下ろした。
 ゴワゴワした音を立てて、ブルーシートが外れると……。
 そこは、薄暗い舞台だった。
 舞台の真ん中に、何か下がってる。
 それがわたしが吊り上げた荷物だってことはわかった。
 でも、それが何なのか、わたしの脳は理解できなかった。
 吊り荷は、電球の光を浴びていた。
 肌色だった。
 一瞬、大きな肉のブロックでも下がってるのかと思った。
 でも、それも一瞬。

「うわっ」

 吊り荷が何なのか理解できた途端、わたしのお尻は、床まで落ちてた。

「そんなに驚いてもらえると、ほんとにやりがいがあるわ。
 わが写真部、専属のモデルさんよ。
 どう?
 あなたが吊り上げたのよ」

 ロープから下がってたのは、人だった。
 それが何か、一瞬理解できなかったのは……。
 その人が、逆さに下がってたから。
 天地が逆の人間を、脳が咄嗟に処理出来なかったんだね。

「綺麗でしょ?」

 若い女性だった。
 真っ裸の。
 いえ、正確に言うと、縄を纏ってた。
 首の後ろから回る縄目が、胸元で網のように拡がり、乳房を戒めてる。
 上下に走る縄で、乳房はひしゃげてた。

「誰だと思う?」

 わからなかった。
 その女性は、白い布地を噛み締めてたから。

「猿轡してちゃ、わからないか。
 前説してる間に喚かれるとぶち壊しだから……。
 静かにしてもらってたの。
 じゃ、取ってあげましょうね」

 先生は、天井から下がる女性に歩み寄り、わたしに背を見せた。
 オーバーブラウスの裾は、ウェストの下で途切れてる。
 丸々とした相臀が、ほしいままに見えた。
 日を浴びずに実った白桃みたいだった。

「苦しかったでちゅか?」

 先生は、女性の首を愛しむように抱いていた。
 生首を弄んでるようだった。
 女性は、イヤイヤをするように身じろいだ。
 でも、先生を突き放すことは出来ない。
 両腕が後ろに回ってたから。
 胸元に拡がる縄が二の腕にも渡り、腕肉が括れてた。
 背中の脇から、僅かに指先が覗いてる。

「今、外してあげまちゅからね」

 後ろ頭に回した先生の手が、結び目を解いてる。
 猿轡が引き絞られ、女性の口元が歪む。

「はい、解けました。
 それじゃ……。
 ご開帳」

 先生は女性を隠していた背中を翻し、わたしへの視界を開いた。
 片手には、白い布地が握られてた。
 女性の顔が、はっきりと見えた。
 でも、わからない。
 逆さになった顔なんて、普段見てないからかな。

「下ろしなさい!
 下ろして!
 お願い……」

 女性が声を上げた。
 その声で、逆さの顔と、記憶の中の顔が、瞬時に結びついた。
 全身が凍りついた。

「やっとわかったみたいね。
 そう。
 あなたも会ってるでしょ。
 転入試験の面接で。
 改めてご紹介するわ。
 当学園の理事長よ」

 理事長と目があった。
 もちろん、何も言えない。
 理事長の目も、事態を把握し切れてないみたいだった。
 わたしと合わせた目線はすぐに外れ、四囲に泳いでた。

「岩城先生。
 どうして?
 どうして、こんなことするの?
 お願いだから下ろして」
「光栄ですわ。
 理事長先生にお願いされるなんて。
 今までは、命令されたことしか無かったですものね」

 先生は、吊り下げられた理事長の周りを、ゆっくりと巡り始めた。
 出来あがった作品を検証する芸術家みたいだった。

「でも、理事長先生。
 ほんとに、素晴らしいスタイルでいらっしゃいますわ。
 もちろん、普段の着衣からも想像できましたけど。
 必要以上にぴったりしたお召し物でしたものね。
 でも、こうして裸になると……。
 想像してた以上。
 ほら、美里。
 こっち、いらっしゃい。
 間近で見てご覧なさい」

 わたしのお尻は、床に落ちたままだった。
 あけみ先生は、ヒール音を響かせて近づくと、わたしの腕を引っ張りあげた。
 人形なら、腕が取れてた。
 それほどの力だった。
 先生は、起きあがったわたしの腕を引き、理事長の前に立たせた。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は7/13まで連続掲載、以後毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


村上涼子×緊縛桟敷

ついに緊縛桟敷に出演!
村上涼子杉浦則夫緊縛桟敷にて本日掲載開始。

ストーリー:
昨夜の久々の交わりで膣に残る疼きをもう一度思い返し、夏の午後のものうい時をすごす涼子。亭主にはすでに舎弟との不倫は発覚している、外に幾人もの女をつくっているやくざな亭主であり、女房の火遊びぐらいで今更やきもちを焼くこともないと念じていたが、いざ現実に起こってしまうと男の沽券を一気に削がれたような憤りが爆発して、隠し持った縄を持ち出して折檻を始めた。
涼子にとっては常日頃ほとんど放置されている身であり、このように熱く怒りを向けられるのは意外な悦びであった。
勝ち気な涼子であるが罪を背負った身を思えば、白州にひれ伏す哀れな女となり許しを乞う。男の怒りは女房の口から仔細が吐かれるまで治まらない、むしろそんなムツゴトを聞かされて怒りを強くするのを楽しみにする男であった。
後ろ手にされた手首にきつく縄を掛けられた瞬間、どこか違った世界に罪からもう一つの罪をかぶったような哀れな身に堕ちた感覚を覚える。それはむしろ心を自由にするようで決して不愉快な感覚ではなく、涼子にとって初めての受縛であった。

撮影後記:
村上涼子にとっては初めての緊縛撮影だと聞く、だが奈加あきら氏のイベントには幾度も観覧席にあって舞台の受縛された女性と心を一つにしながら涙をながして見入っていたそうだ。
今回はそんな想いが現実となるということで、昨夜眠ることができないほど興奮していたとメイク時間に落ち着かないようすでした。
今回撮影をさせて頂いて今後が続くようならば、幾度もお願いしようという相談のうえ、徐々に拘束に慣れていただくとして吊りなどはいつの日にか実現をしようということになりました。
しかし途中で私の癖が出てしまい、約束はどこかえ飛んでゆき、きつく責めるシーンが幾度かあります。さすがの涼子ちゃんも苦しさに涙してしまいました。
すみませんでした、閲覧者にとっては貴重な涙かと思います。次回は村上涼子の魅力をもっと強く写すように努力いたします。

村上涼子杉浦則夫緊縛桟敷にて本日掲載開始。

放課後の向うがわⅡ-6

 先生は、鏡の角度を調節しながらわたしの脇に据えた。
 姿見を離れた先生が、わたしの前に戻った。

「ほら。
 どう?
 すっごいヤラシイ」

 鏡に映る教師と生徒。
 生徒は、壁を背にしている。
 白いブラウス。
 そのブラウスは、短い裾まで見えてた。
 裾の下から、尻たぶの窪みが覗いてる。
 対する教師も、チェックのオーバーブラウス。
 でも、ウェスト下で一直線に切れた裾の下には、何も着けて無い。
 薄暗い電球の下……。
 お尻は、皮を剥かれた桃みたいに見えた。

 先生は、見つめていた鏡から、視線をわたしに戻した。
 わたしは、身を固くした。
 ひょっとして、さっきの続きをしてもらえるのかも……。
 なんて期待も、少しあった。

「さて。
 こんなことしてると、日が暮れちゃうわね。
 じゃ、もう少し講義を進めましょうか。
 この、素敵なスタイルでね」

 先生は、わたしの前を離れて歩き出した。
 ブラウスの下に実る桃が、重そうに揺れた。

「この手動ウィンチの話だったわよね」

 先生は、作業台の上に載る綺麗な機械に手を置いた。

「なんでこんなものが、ここに据えられることになったのか。
 この部屋の工事が、途中で放棄されたことまでは話したわよね。
 理事長の気まぐれで、次々と設計変更になってるのに……。
 理事長が、変更契約に応じなかった。
 で、業者も怒って……。
 当初の契約額では、この部屋の内装は出来ないってことになったわけ。
 でも、理事長だって、意地を張ってたわけじゃ無いのよ。
 早い話、無い袖は振れないってこと。
 お金が無かったのよ。
 内装だけなら、後からでも出来るって思ったんでしょ。
 でも、残念ながら……。
 未だにその時のままってわけ」

「で、ウィンチの話よね。
 この部屋を残して、工事がほぼ終了するころだった。
 工事中も、理事長はたびたびヨーロッパに遊びに行ってたんだけどね。
 工事終了間際になって、とんでもないお土産を持って帰ったのよ。
 と言っても、手で持って来たわけじゃないけどね。
 持てるものじゃ無いから。

 なんだと思う?
 ピアノよ。
 アンティークピアノ。
 船便じゃなくて、航空便で送ったのね。
 どうしてもそれを、理事長室に入れたいからって。
 完成間際の工事現場に、それが届いた。

 で……。
 例によって、理事長と現場監督で、すったもんだよ。
 もっと早くだったら、問題なかったの。
 ほら、さっきホールから登ってきた階段があったでしょ。
 あれは、最後に取り付けられたのよ。
 その前までは、あのバルコニーのあった場所に、資材搬入用のリフトが付いてた。
 あれだったら、アップライトピアノのひとつくらい、運び上げられたと思う。
 でも、あの華奢な階段じゃ無理よ。
 ちょっとバランス崩しただけで、手すりが外れて転落だもの。

 もちろん現場監督は、搬入出来ませんってはっきり断った。
 だけど、理事長も譲らない。
 このピアノが入らなければ、この建物は完成しないって。
 “画竜点睛を欠く”なんて、古風な言い回しまで使ってた。
 聞いてて吹き出しそうになったわ。
 こんなロココ調の建物に、“画竜点睛”も無いものよね。
 って、腹で笑ってたら、なんと、お鉢がこっちに回ってきた。
 わたしが、現場監督との交渉係に命じられちゃったのよ。

『あなたの任務は、このピアノを理事長室に運び入れること。
 方法は、問いません。
 でも、出来ませんでしたって言葉は、絶対に使わないでちょうだい』

 言外に、『出来なきゃクビよ』って威圧が感じられたわ。
 『辞めてやるわよ!』って言えれば、どんなに気持ちよかったかしら。
 でも、出来なかった。
 だって、この学園は……。
 ともみさんと繋がれる、唯一の場所だったから。
 ひょっとしたら、ともみさんが訪ねて来るかもしれない。
 その場に、わたしがいないわけにいかないじゃない?
 というわけで、交渉係の任を、ありがたく拝命したわけ」

「現場監督とは、進捗状況報告係として、すっかり顔馴染みになってた。
 頭ごなしに命じられると反発するけど……。
 下手から頼まれると断り切れない人だってことも、わかってたし。
 それに……。
 わたしに気があるってこともね。
 で、それに乗じてお願いしたわけよ。
 ピアノが入れられなければ、クビになりかねないって言ったら……。
 ひどい話だって、顔を真っ赤にして、自分のことのように怒ってくれた。

『使われる者の辛さは、ボクもわかります。
 ボクが断ったら、あなたが困るわけですよね。
 わかりました。
 やりましょう。
 このピアノは、あなたのために運び上げます』

 見事、交渉成立。
 だけど、問題は方法よ。
 建物の中から搬入できないのなら……。
 外から入れるしか無い。
 ピアノが通るほどの窓は、この理事会室にしかなかった。
 ということで、この窓から入れるしかないって結論は、あっさりと出た。
 だけど、そう……。
 問題は方法よ。

 この窓の下にクレーン車が付けられれば……。
 大した問題は無いのよ。
 でも、それが出来なかった。
 この窓の下がどうなってるか、あなたも知ってるでしょ?
 そう。
 幾何学模様の整形庭園。
 ベルサイユ宮殿を真似たんだってさ。
 もちろん、規模は比べ物にならないけど。
 で、この庭園が、先に出来ちゃってたの。
 密植した生垣も、刈り込みが終わってた。
 つまり、いったん引っこ抜いて、また元に戻すってことが出来ないわけ。
 水糸まで張って刈り込んだエッジが、崩れちゃうものね。
 というわけで、さぁ困ったよ」

「で、出た結論がこれ。
 ピアノは台車に乗せて、迷路みたいな園路を通し、この窓の下まで運ぶ。
 あとは、窓から引っ張りあげる。
 もちろん、人力なんかじゃ無理だから……。
 動力が必要。
 それで……。
 こいつね」

 あけみ先生は、手の平を上に向け、人差し指を伸ばした。
 その指の先には、キラキラと輝くリールみたいな機械。
 そう、手動ウィンチ。

「でも、この機械の選定でも、ひと悶着あったのよ。
 現場監督は、電動のウィンチを設置するつもりだったの。
 いくつかカタログ取り寄せて、わたしにも見せてくれた。
 でも、問題は、購入費ね。
 もちろん、普通だったら……。
 施工業者が仕入れて、納入業者に代金を支払う。
 で、施工業者は、施主に請求するわけよね。
 でも、変更契約にも応じない施主でしょ。
 下手すりゃ、ウィンチ代、施工業者の持ち出しよ。
 だから、現場監督も考えたわけね。
 ウィンチは、学校さんで買ってくれと。
 うちは中に立たないから、代金は納入業者に直接払ってくれって。
 ピアノの搬入は、こっちで責任持って行うからって。

 それを聞かされた理事長は……。
 微妙な顔したわね。
 あれは絶対、踏み倒すつもりだったのよ。
 でも、現場監督も、この条件を譲らなかったし……。
 何より、工期が迫ってた。
 で、理事長も渋々、条件を呑んだわけだけど……。

『こっちで購入するからには、機械もこっちで選定させてもらうわ』

 ってさ。
 敵もさる者だって……。
 あとから、現場監督がこぼしてた。

 で、カタログを取り上げ、パラパラとページをめくって……。
 選んだのが、これよ。
 綺麗だからってのが、選んだ理由みたいに言ってたけど……。
 わたしは、それが一番の要因とは、思わない。
 手動だったからよ」

「現場監督は、ピアノの搬入は責任持って行うって言ってたからね。
 口約束でも、一度言ったことは絶対守る人だってこと……。
 理事長も、ちゃんとわかってたのよ。
 で……。
 少しでも、困らせたかったんでしょうね。
 電動ウィンチで、するする上げられたら面白くないって。
 それで……。
 手動の機械を選んだのよ。

 どう。
 この機械が、ここに設置されたバカないきさつ……。
 わかったでしょ。
 この作業台も、そのとき造り付けられたのよ。
 ドラムより大きな円を描くハンドルを回さなきゃならないから……。
 床に設置するわけにいかなかったの。
 この点では……。
 理事長の意地悪が功を奏したって言えるかもね。

 で、ピアノの搬入なんだけど……。
 これが、あっけないほど上手くいったのよ。
 理事長は、面白くなさそうだったけど。
 この、手動ウィンチ、見た目以上に性能が良かったってこと。
 巻き上げに、ほとんど力なんて要らないの。
 落っことしたら、取り返しのきかないピアノだったから……。
 安全を期して、2機も設置したんだけどね。
 たぶん、1機で十分だったと思うわ。
 ほら、上を見てご覧なさい。
 鉄骨の梁に、まだ滑車がぶら下がってるでしょ。
 あそこにワイヤーを渡して、窓の外のピアノを吊り上げたわけ。
 ほんとに軽々と上がった。
 大した機械よ」

 あけみ先生は、犬の頭を撫でるように、ウィンチの肌をさすった。

「でも、それ以来……。
 このウィンチが働く機会は無かった。
 たった一度の晴れ舞台。
 それ以後は、この薄暗い部屋で、ビニールシートを被ってたわけ。
 工事完了後、この部屋は施錠されちゃったしね。
 開かずの間ってこと。
 この機械とは、3年ぶりの対面だったわ。
 あ、わたしがこの部屋に入れるようになったいきさつは……。
 後で話すわね。
 さてと……」

 あけみ先生は、機械を愛でるように伏せていた瞳を上げて、真っ直ぐにわたしを見た。

「ちょっと、おしゃべりが過ぎたみたいね。

 モデルさんがお待ちかねだわ」


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《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は7/13まで連続掲載、以後毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。