放課後の向うがわⅡ-34


 あけみ先生の手首が、ゆっくりと前後し始めた。
 さっきまでの乱暴な所作じゃ無かった。
 でも、優しさとも違う。
 そう。
 獲物を嬲るような、無慈悲な悦びを孕んでた。
 でも、理事長の反応は、明らかにさっきまでとは違ってきた。

「はぁぁぁ」
「まぁ、いいお声。
 ほら、ここはいかが?」
「く、く」

 理事長は、電球の明かりから逃れるように、顔を倒した。
 あけみ先生の視線から、自らの表情を隠そうとしてるみたいだった。
 理事長の顔は、わたしの方を向いてたから……。
 電球の作る影が半分覆ってたけど、わたしにはその表情がよく見えた。
 口が開き、白い歯が零れてる。
 視線が、怯えたように揺れてた。
 それは、あけみ先生への怖れではなく……。
 自らの内奥へのおののきに見えた。


「どうしたの?
 ほら。
 いいんでしょ。
 これが。
 これよね」
「はぅぅ」

 理事長の顎が上向いた。
 電球の明かりに、表情を晒した。
 下腹を絞りあげられるように感じた。
 理事長は、それまでのわたしの人生で、まだ見たことの無い女性の表情をしてた。
 無防備に身を任せながら、内奥の悦楽を貪ってる顔。
 今なら、そうわかるけど……。
 そのときは、見てはいけない顔に思え、その場から逃げ出したかった。
 わたしの気配に、あけみ先生は気づいたようだった。

「美里。
 よく見なさい。
 これが、雌の顔よ。
 どんな偉い学者でも、教育者でも、閨ではこの顔になるの。


 理事長?
 いかがですか?
 何とか言ったらどうなの。
 人にこれだけサービスさせておいて。
 ほら、言ってごらん。
 まんこにバイブ入れられて、気持ちいいですって」

「あぅぅ」
「オットセイじゃ無いんだからさ。
 ちゃんとしゃべりなさいよ。
 言う事聞かないんなら……。
 今の理事長に一番つらいお仕置きをしますよ。
 どうなの?
 そう。
 いいのね。
 それじゃ……。
 スイッチ、オフ」

 バイブの音が消え、理事会室に静寂が戻った。
 裸電球のフィラメントが灼ける、儚い音まで聞こえそうだった。
 あけみ先生は口角を上げ、理事長の顔を見下ろしてる。
 舌なめずりする蛇のようだった。

「あぁ」

 理事長の表情が崩れた。
 あけみ先生の口角が、さらに切れあがった。

「どうしたの?」

 理事長は、唇を噛んでた。

「うぅ」

 理事長の口から嗚咽が漏れると、腹筋が波立った。
 不自由な姿勢のまま、腰が蠢いてた。
 下腹部が、バイブを慕うように持ちあがる。
 あけみ先生は、微笑みを貼りつけたまま、無慈悲に腕を引いた。

「イヤぁ」
「何がイヤなの?
 言いなさいって」

 理事長は、壊れた扇風機みたいに顔を横振った。
 髪の毛が、左右の畳を叩く。
 腰が前後に動き始めた。

「どうしてほしいの?
 もう止めてほしい?」

 理事長の首が、いっそう強く振られた。

「じゃぁ、続けてほしいの?
 もう一度、スイッチを入れてほしい?」

 理事長の首が持ちあがった。
 自らの股間を覗きこむように、首が大きく縦に振られた。

「そう。
 それじゃ、ちょっとだけサービス」

 バイブの駆動音が立った。

「あひゃぁ」

 理事長が奇声をあげた。
 頭が再び落ち、髪がモップみたいに畳を掃き始める。

「はい、おしまい」

 駆動音が消えた。

「いやいやいやぁぁぁぁぁぁぁ」

 理事長は、赤ん坊のように泣きじゃくった。
 その顔を、あけみ先生が覗きこむ。
 口角は上がったままだったけど、目は笑ってなかった。
 まるで、微笑みの仮面を被ってるみたい。

「動かしてほしい?」

 理事長の首が、がっくがっくと縦振られた。

「それじゃ、言いなさい。
 こないだ、ここに来てた女性は誰なの?
 この部屋で、あなたに蝋燭垂らしてた女性よ。
 言わないと、ずっと生殺しよ」
「知らない。
 知らないのよ」
「ウソおっしゃい。
 知らない人の前で素っ裸になって、蝋燭垂らされましたって?
 そんなバカな話、通じると思ってるの?」
「ほ、ほんとなの。
 お姉さまは、突然現れるのよ。
 この部屋にだけ」
「お姉さま、ね。
 あの人、いくつ?」
「知らないわ」
「確かに、理事長と同じくらいに見えましたわね。
 でもあの人、わたしたちより、ずっと年下なんですのよ。
 今ごろはまだ、どこかの中学生かな?
 ふふ。
 何言ってるか、わからない?
 そんな顔ね。
 ま、説明は止めとくわ。
 しゃべってると、バカバカしくなるような話だから。
 でも、名前くらい名乗りませんでした?」
「わからない……」
「ともみ。
 ともみって言ったんじゃないの?
 ともみよ!」

「ほんとに知らないの」
「うかつな女ね。
 あなたは、名前も知らない女の前でヨガるわけ?
 とんでもない変態だわ。
 そうそう。
 変態はもう一人いたんだった」

 あけみ先生は、バイブを置き去りにしたまま起ちあがった。

「あぁ。
 動かして。
 これ、動かして」
「はしたない女ね。
 おあずけよ」

 投げつけるように言い捨て、あけみ先生は理事長に背を向けた。
 向かった先は、川上先生だった。

「さっきから、バカに静かね。
 どういうつもり?」

 あけみ先生は、川上先生の顔を覗きこんだ。
 川上先生は、眉根に皺を寄せ、顔を歪めた。

「ははぁ。
 理事長のヤラシイ顔見てて、気分出しちゃったのね。
 あなたも弄ってほしいの?」

 川上先生は、目を伏せたまま顔を横振った。

「ウソおっしゃい。
 こーんなに乳首、起ててるくせに。
 美里、こっち来てごらん。
 ほら見て、この乳首。
 起ってるわよね?」

 川上先生の平常時の乳首なんて、もちろん見たことないから……。
 今の乳首が、普段と違ってるかどうかはわからない。
 でも、これが通常の乳首だったら、ブラに擦れたりして大変なんじゃないか……。
 そう思わせるほど、乳首は突き出て見えた。

「恥ずかしくありません?
 生徒の前で、乳首なんか起てて。
 それでも教育者なの?」
「た、起ててません」
「まーだ、そんなこと言うのかしら。
 とんでもない嘘つき女だわ。
 こんなになってるくせに。
 弄ってほしいんでしょ?」

 川上先生は、連獅子のように髪を打ち振った。

「ちょっとだけ触ってあげる」

 あけみ先生の片手が上がった。
 でも、その手は、乳首を摘む形では無かった。
 影絵の狐を作る形に似てるけど、少し違う。
 親指の腹に、丸まった中指の爪が押さえられてる。
 残りの指は、宙に向けてピンと立ってる。
 そう。
 そういう遊びがある。
 矯めた中指を開放し、額を弾くやつ。
 いわゆる、デコピンね。
 あけみ先生の作る狐が、川上先生の乳房に近づいた。

「悪い子にお仕置き。
 そーれ。
 ピーン」
「あひぃっ」

 川上先生は、顔を仰け反らせた。
 白いノド首が、石筍のように立ちあがる。


「すっごい感度。
 ヤラシイ女」
「言わないで……」
「じゃ、自分で言いなさい。
 わたしは、生徒の前で乳首を起てる、イヤらしい教師ですって」
「……」
「言ったら、弄ってあげるわよ」
「言えません」
「素直じゃない口ね。
 身体は、こーんなに素直なのに。
 ほら、見てごらん、美里。
 股縄の隙間から、お汁、漏らしてる」
「ウソ!
 ウソよ」
「ウソじゃないもんねー。
 美里ちゃん、よーく見て。
 絶対これ、本気汁よね」

 確かに……。
 飴色の縄が、そこだけ色を濃くしてるように見えた。
 わたしは、思わず顔を近づけた。

「見ないでぇ」
「よく見なさい、美里。
 教師の流す、本気汁よ」
「うぅ」
「あー、泣いちゃった。
 かわいそー。
 誰に苛められたの?
 まさか、わたし?
 ふふ。
 じゃ、ちょっとだけ慰めてあげるね」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


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