放課後の向うがわⅡ-47


「あぁ。
 最高……。
 撮って。
 ミサ、撮って。
 立ちオナする変態女を。
 そう。
 あぁ。
 フラッシュ浴びると、身体が燃えるわ」

 あけみ先生のブラウスが、細かく震え出した。
 指先は、すでに佳境を奏でてるに違いなかった。

「撮って」

 無音の花火のように、フラッシュの光が広がる。

「あひぃ。
 イ、イキそう。
 ミサ?
 わたしって、イヤらしい?
 イヤらしい?
 言って!
 変態って。
 言うのよ!
 変態女って」
「変態」
「もっと!」
「変態!
 あけみ先生の変態!」
「ひぃぃぃぃぃ」

 あけみ先生の腕が、フラメンコギターのクライマックスを掻き鳴らし始めた。

 その時だった。
 シャッターを切ろうとしたわたしの指が、止まった。
 ファインダーの視界の中に、違和感を感じた。
 姿見だった。
 あけみ先生が、女王さまから身を隠すときに使ったという、大きな姿見。
 それが、画角の隅に入ってた。
 さっきまでは、暗い室内を映してたはずの鏡。
 その鏡面が、色を発してる。
 それは、鏡と云うより、縦長の窓に見えた。
 窓の向こうは、昼間。
 でも、何が映ってるのか、はっきりとしない。
 鏡面が、さざ波のように揺れてる。
 石を投げられた池のようだった。
 いったい、どうしたんだろう。

 いまさら気づいて、顔の前からカメラを外した。
 鏡が、理事会室を映してないのは明らかだった。
 鏡面を渡るさざ波が、次第に間遠になっていく。
 矩形の端に見える青は、紛れもなく空だった。
 手前には、白いテーブル。
 そして、テーブルの向こうには……。
 テーブルとは異質の白。
 柔らかい乳白色。
 そう。
 人の上半身。
 明らかに女性だった。
 なぜなら、衣類を着けてなかったから。
 2つの乳房が、焦点を結んでた。
 でも、顔は見えない。
 鏡面は、女性の首までで切れてたから。

「ミサ!
 フラッシュちょうだい!
 早く!」

 わたしは、慌ててカメラを構えた。
 シャッターを切る。
 もちろん、画角に鏡は収めてある。

「熱い……。
 背中が熱い。
 光の精液を浴びたみたい。
 そう。
 わたしのブラウスの背中には……。
 べっとりと精液が貼りついてる。
 ブラウスの裾から垂れた精液が……。
 お尻を伝う。
 ぬめぬめと光りながら、尻の割れ目に潜りこみ……。
 肛門を濡らす。
 そして、会陰を回りこんで、おまんこに入るの。
 あぁ。
 ほら、クリを弄るわたしの指にまで、這いあがってきた。
 あぅぅ。
 この格好で、街の中に出たい。
 精液を、尻たぶからツララのようにぶら下げて、人混みを歩くの。
 わたしを見た男は、ことごとくちんぽを出すわ。
 もちろん、わたしに向かって擦りたてる。
 怒張した亀頭が、わたしを取り囲む。
 射出口が、鈴穴みたいに膨らみ……。
 男たちは、一斉に爆ぜる。
 白濁した精液が、鞭のようにわたしを叩く。
 もちろん、顔面にも。
 栗の花の礫を浴びたよう。
 わたしは、肺の奥まで匂いを吸いこむ。
 それでも、精液の祝福は止まない。
 仰向いた顔に、ブーケのように降り注ぐ。
 全身を包みながら……。
 精液は精液に重なり、厚みを増しながら流れていく。
 わたしは、1本の鑞涙となり……。
 その場に溶け崩れていく。
 あぁ……。
 イク。
 イ、イクから……。
 撮って。
 イク瞬間を……。
 撮って」

 あけみ先生の腰が、ガクガクと前後に振れ始めた。
 尻たぶが絞られてる。
 わたしは、シャッターに指を掛けた。
 でも、その指先が凍りついた。
 ファインダーの中で、鏡面の景色が変わってた。
 さっきまで、テーブルの向こうに座ってた人物が……。
 テーブルの前に立ってた。
 上半身は、鏡面を外れて見えない。
 でも、肌の色合いから、さっきの女性に違いないはず。
 でも……。
 その女性の股間からは、男根が起ちあがってた。
 男根は、女性の臍を隠し、天を向いて突きあがってる。
 それでも“女性”と言うわけは、その男根が、明らかに人造物とわかったから。
 毒を吐く虫のように、ヌメヌメと赤黒い光沢を纏ってた。

「ミ、ミサ……。
 何してるの。
 早く……。
 早くフラッシュをちょうだい」

 女性の指が、画角の上から降りてきた。
 男根に絡みつく。
 真っ白い指と、赤黒い男根。
 それはすでに交合だった。
 女性の二の腕に力が籠るのがわかった。
 同時に、男根が押し倒された。

「ひ」

 わたしは、カメラを取り落としそうになった。
 水平まで仰角を下げた男根の先……。
 怒張した亀頭が、鏡面から突き出てたの。
 わたしは、カメラを抱きしめたまま後退った。

「ミサ!
 ミサってば!」

 男根に続き……。
 鏡面からは、白い足が抜き出て来た。
 塑像のように美しい片脚が、ゆっくりと膝を曲げ……。
 理事会室の床を踏み締めようとしてた。
 そうか……。
 この鏡が入口だったのか。

「美弥子さん……」

「美弥子さん。
 大丈夫?
 ちょっと入れすぎちゃったかな?」

 視界の中央で、人形(ひとがた)が、ゆっくりと焦点を結んだ。
 美里だった。
 目の前には、白いテーブル。
 風を感じた。
 そうだった。
 ここは、マンションのベランダだ。
 ようやく思い出した。
 美里の話を聞きながら、ここでお茶を飲んでいたのだ。
 でも……。
 どうしてこんなに、身体が重いのか。
 空気が、綿飴のように感じられる。

「良かった。
 どうやら、大丈夫そうね。
 いかがでした?
 わたしの入れた特製紅茶。
 眠り薬入り」

 2杯めの紅茶は、リビングから場所を移し、ベランダで楽しむことになった。
 美弥子が、カップを運んでる間……。
 美里がキッチンで、新しい紅茶を入れていたのだ。
 眠り薬とは、いったいどういうことだろう。
 そして、この身体の重さは……。

「ふふ。
 やっぱりそうだ。
 さっきまで、あんなに曇ってたのに。
 ほら、雲が切れて青空が見えてきた」

 美弥子も、片頬に陽光を感じた。
 でも、頸が自由に動かない。

「さてと。
 事情を説明しなきゃならないわね。
 その前に……。
 これ、おみやげ」

 そう言って、美里がテーブルに置いたのは、真新しい新聞だった。
 美弥子の取ってる新聞社のものではなかった。
 朝刊としては薄く、2つに折られた一面の上部一杯に、大きな活字が踊ってる。
 これは……。
 街頭で配られる、号外ではないだろうか?

「ふふ。
 わからない?
 ま、仕方ないわ。
 大丈夫。
 睡眠薬のせいじゃないわよ。
 こんな話、わからなくたって当たり前。
 わたしだって、まだ半信半疑なんだから。
 でも、確かめてみる価値はあると思った」

「いえ。
 確かめるだけじゃダメ。
 実行しなきゃならない。
 実行しなければ、わたしはいったいどうなるのか……。
 判らない。
 だけど、怖かった。
 自分が消えてしまいそうで。
 ふふ。
 ますます判らないわよね。
 じゃ、話を急ぎましょう。
 空も晴れてきたことだし」

 美里は、チュニックの胸ポケットから、矩形のカードを取り出した。
 いや。
 カードではない。
 写真だ。
 大振りなポケットから現れたのは、少し大きめな写真プリントだった。
 美里は、それを美弥子の前に翳した。

「女性が3人写ってるでしょ。
 1人は、畳に仰向け。
 もう1人は、宙吊り。
 2人とも、裸に縄だけを纏ってる。
 3人めは、後ろ姿ね。
 上半身は、オーバーブラウスに包まれてるけど……。
 下半身は剥き出し。
 両脚を“く”の字に開き、縄に打たれた2人の前に立ってる。
 どう?
 わたしの話が、嘘じゃないってわかったでしょ。
 そう。
 この写真は、わたしが撮ったものなの。
 あの理事会室でね。
 でも、ほんとに見て欲しいのは、ここよ。
 見える?
 小ちゃいからね。
 縦長の大きな姿見が写ってるでしょ。
 これこれ。
 どう?
 おかしいでしょ?
 鏡なのに、部屋の中を写してない。
 窓に板を打ちつけられた部屋なのに……。
 ほら、青空が写ってる。
 そして、白いテーブル。
 その上には……。
 新聞。
 もちろん、紙面の文字は読めないけど……。
 見出しだけは読める。
 だって、こんなに大きい活字なんだもんね。
 読めるでしょ?
 『なでしこ 銀』って。
 今朝の試合、見た?
 はは。
 見てないわよね。
 美弥子さんの口から、サッカーの話なんて、聞いたことないもの。
 でも、わたしは見てた。
 これ以上ないほど真剣に。
 ちっとも眠くなかった。
 試合が終わってから、一睡もしてないんだけど……。
 今も、ぜんぜん眠くないわ。
 もうわかったでしょ?
 そうよ。
 この写真は、3年……。
 いえ2年半前に撮られたもの。
 でも、この中に写ってる新聞は……。
 間違いなく、これよ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


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