放課後の向うがわⅡ-48

 美里は、テーブルの新聞を持ち上げた。
 紙面の幅いっぱいに書かれた『なでしこ 銀』の文字。
 美里の掲げる古い写真に、同じ新聞が写っていると言う。
 いったい、どういうことなのか。

「この写真を撮ったころだって……。
 もちろん、『なでしこ』が、女子サッカー日本代表の愛称だってことくらい知ってたわ。
 でも、『銀』って、いったいどういうことだろう?
 だって、あのころの女子代表は、そんなに強くなかったもの。
 だけど、去年のワールドカップには、びっくりした。
 まさか、あんなに強くなってたとはね。
 あれよあれよという間に勝ちあがって……。
 なんと、決勝まで残った。
 テレビや新聞では、初めての快挙だって熱狂してた。
 それで確信したのよ。
 あの鏡に映ってた新聞は、未来のものだったんだって。

 でも、去年のわたしは、まだ高3で……。
 転校先のあの高校にいたでしょ。
 この写真に写ってるものには、何ひとつ見覚えが無かった。
 どうすることも出来ないまま……。
 ワールドカップ決勝を見てた。
 結果……。
 見事、アメリカを下し、世界一になった。
 『銀』じゃなかったのね。
 よく考えれば……。
 ワールドカップって、あんまり『金銀銅』とか言わないもんね。
 ということは……。
 この新聞に書かれてる記事は、オリンピックのものじゃないのか?
 もちろん、いつのオリンピックか判らないけど」

 美里は、ティーカップを口元で傾けた。
 小さな喉仏が、別の生き物のように動いた。

「で……。
 この春、大学に入学して、東京に出てきた。
 そして思いがけず、美弥子さんと再開できた。
 わたしがあの高校に転校したのは、1年の秋だから……。
 2年半ぶりの再開よね。
 美弥子さんは、驚くほど大人びて見えた。
 もちろん、高1のときだって、抜きん出て綺麗だったけど……。
 大学生になった美弥子さんには、気圧されるほどのオーラを感じたわ。
 会った途端、虜になった。
 気がついたら、跡をつけてた。
 で、このマンションに上げてもらったのよね。
 もちろんその時は、この写真のことなんて忘れてたわ。
 でも、このベランダと、白いテーブルセットを見た瞬間……。
 稲妻に撃たれた」

「写真に写ってたのは、ここだったんだ。
 ということは……。
 あの写真の『銀』は、ロンドンオリンピックである可能性が高いと思った。

 そして、オリンピック。
 『なでしこ』は、予選リーグ、そして決勝トーナメントを、順当に勝ちあがって行った。
 ついに決勝。
 相手は、去年のワールドカップと同じ、アメリカ。
 一睡もしないまま、午前3時45分の試合開始を待った。
 そして、ホイッスルが鳴った。
 おそらくこの日……。
 日本中で、一番アメリカを応援してたのは、わたしだったと思う。
 手に汗を握るってのが、大げさじゃなく、ほんとのことだって初めてわかった。
 そしてようやく、試合が終わった。
 『なでしこ』の『銀』が確定したのよ。

 すぐにこのマンションに来たかったんだけど……。
 号外が出るまで待たなきゃならない。
 美弥子さんが早朝の街に出て、号外をもらって来るとは思えなかったから。
 それなら、この号外は、わたしが持ちこまなきゃならないじゃないの。

 ジリジリする思いで、時間の経つのを待った。
 でも、どうしても待ちきれず、外に出た。
 駅前まで行っても、号外が配られてる様子は無かった。
 配られるまで待っていようかとも思ったけど……。
 気持ちが急いて、1ヶ所に留まっていられなかった。
 そのまま電車に乗り、このマンションの最寄り駅で降りた。
 駅前のロータリーに出ると、小さな人だかりが出来てた。
 その輪を抜けて来る人の手に、新聞が握られてる。
 わたしは駆け寄った。
 そして……。
 この新聞を手にしたの。
 同じだった。
 『なでしこ 銀』。
 活字が、一面の幅いっぱいに踊ってる。
 新聞を抱きしめながら、このマンションに向かったわ」

 美里は、そう言うと、カップを置いた。
 眼の前に掲げた写真から上げた目を、ベランダの外に向けている。
 日差しに細めた目に、空が映って見えた。

「そろそろいいわね。
 写真の中の空と、おんなじ色になってきた。
 ここまで言えば、もうわかってるわよね。
 そう。
 3年前のあの日、鏡の向うから現れたのは……。
 ともみさんじゃなかった。
 美弥子さん。
 あなただったのよ。
 でも、美弥子さんが率先して行ってくれるなんて、とても思えなかった。
 ならば、わたしがプロデュースするしか無いじゃない?」

「オリンピックで、『なでしこ』が『銀』を取ったこの日……。
 もし、美弥子さんが、あの部屋に現れなかったら、どうなるのか?
 それは、わたしにもわからない。
 たぶん、誰にも。
 でも、それを試すのは、あまりにも怖い。
 あの日、確かに美弥子さんは、鏡の向うから来たのよ。
 そして……。
 ま、あれから起こった出来事については、また別の日に話してあげる。
 今日はもう、時間が無いから。
 さ、いい子にして行ってきてね。
 あの日を完結させるために。
 さもないと、あの日の4人は……。
 永遠に、あの理事会室に閉じこめられてしまう。
 もちろん、根拠は無いけど。
 そんな気がするの。

 さて、おしゃべりが過ぎたわ。
 大丈夫。
 準備は、すべて出来てる。
 美弥子さんが眠ってる間にね。
 寒くない?
 陽が射してきてるから、平気よね。
 裸でも。
 ふふ。
 起こさないように脱がすの、大変だったんだから。
 でも、ほんとに綺麗なおっぱい。
 白いテーブルと、裸の上半身。
 まさしく、この写真とおんなじ。
 それから……。
 これ」

 美里は、椅子の上で身を捻り、背もたれの後ろを指さした。
 そこには、縦長の大きな鏡が据えてあった。

「リビングから持ってきたのよ。
 大きさといい、形といい、あの理事会室にあった姿見と、瓜二つ。
 見た瞬間、ぜったいこれだと思った。
 美弥子さんは、この鏡を通って、向こうの鏡から出たのよ。
 そう、きっともうすぐ……。
 この鏡には、薄暗い理事会室が写るわ。
 どう?
 気分出て来た?
 まだ行く気にならない?
 ふふ。
 やっぱりこれが必要ね」

 そう言って美里は、自分のお腹の下を覗きこんだ。
 テーブルに隠れて見えないが、美里の太腿には、何かが載ってるようだ。

「わかるでしょ?
 これは、寝室にあった。
 探すまでも無かった。
 ベッドの上に投げ出してあったんだから。
 ふふ。
 夕べも使ったでしょ?」

 美里は、両手で捧げ持つように、それを持ち上げた。
 テーブルの縁を越え、思ったとおりの物が現れた。

「そう。
 あの日の美弥子さんは……。
 股間から、男性のシンボルを突きあげてた。
 あの日は、呪術から生まれた怪物みたいに見えて、ただただ怖ろしかったけど……。
 今は、あの日の化け物の正体がわかってる。
 もちろん、この双頭ディルドゥの存在を知ったから。
 でも、見れば見るほど、グロテスクよね」

 双頭と云っても、直線の両端に亀頭を有する形状ではない。
 そのディルドゥは、クワガタの顎のような形をしていた。
 いや、正確に言えば、馬蹄形だが……。
 もっとも近い形は、布団挟みだろう。
 ベランダに布団を干す時、布団が風で飛ばされないよう、上から挟む器具だ。
 その布団挟みと同じく、ディルドゥは、基部を一つにしていた。
 根元は、樹木に出来る肉瘤のように盛りあがっている。
 むろんそれは、陰嚢を模した意匠だろう。
 そしてその瘤から、2本の男根が生えているのだ。
 1箇所から生えた男根は、互いに背きながら反りあがっている。
 しかし先端部では、亀頭が再び接していた。
 クワガタの顎が閉じた形だった。
 美里は、反り返る男根を、それぞれの手で握った。
 そのまま、眼前に掲げる。
 閉じた大顎の中に、美里の顔がすっぽりと収まって見えた。
 美里の口角が上がった。

 カン。

 バネ音が響いた。
 2つの亀頭が、わずかに離れた。

 カンカンカン。

 美里の両腕に引き離され、クワガタの大顎が開いた。

 このディルドゥは、高校時代、1人の女教師から受け継いだものだった。
 形見と言ってもいいだろう。
 もちろん、正式に渡されたものではない。
 美弥子が、遺品の中から黙って持ち出したものだった。
 誰かの手に渡ることが、忍びなかった。
 なぜならこのディルドゥに、美弥子はバージンを捧げたのだから。
 その後も、幾度となく犯された。
 このディルドゥを装着した女教師に。
 ディルドゥの肉色には、高校時代の愛憎が染みついているのだ。

「さて、これを着ければ、準備完了よ。
 いったい、どんな魔法が起きるのか……。
 じっくり拝見させてもらうわ」

 美里は、ディルドゥをテーブルに横たえた。
 白いテーブルに載せられた赤黒いディルドゥは、今にも起きあがりそうに見えた。
 美里は、後ろに引いた椅子を持ちあげると、離れた位置に置き直した。
 美弥子の前から障害物が消え、鏡までの視界が開けた。

「それでは……」

 美里は、再びディルドゥを取りあげた。

「あんまり焦らして、薬の効き目が切れたら大変。
 動けないうちに、仕上げなくちゃ」

 美里は、ディルドゥを抱えたまま、口角を上げた。
 そして……。
 消えた。
 目の前から。
 いや、身を屈めたのだ。
 くぐもった笑い声が、テーブル下から聞こえてきた。

「あの写真に、わたしは写ってなかった。
 離れて見てたのかなとも思ったけど……。
 違うわ。
 あの写真のわたしは、テーブルの下にいたのよ。
 そう。
 美弥子さんに、このディルドゥを装着させるために」

 カンカンカン。

 バネ音が響いた。

「ほら、もっと股を広げて。
 腰を前に。
 引っ張るわよ。
 よいしょ。
 ふふ。
 相変わらず、大きいクリ。
 ちょっと……。
 起ってるわよ。
 行く気満々じゃないの。
 あ、薬が切れかけてるのかな?
 それじゃ、急がなきゃ」

 ここで声が途切れ、間があった。

「ふぅ。
 太っとい。
 わたしのフェラで濡らしてあげたからね。
 痛くないわよ。
 それじゃ……」
「あぅぅ」

 陰唇に、巨大な異物を感じた。
 襞を左右に分けながら、異物がめりこんで来る。

「あぐぐ」
「それじゃ……。
 いってらっしゃい。
 美弥子さん。
 あの……。
 放課後の……。
 向こうがわへ」
「がっ」

 巨大な肉棒が、胎内に貫入した。
 テーブルの向こうで、鏡面が揺れていた。
 揺らめく鏡の面に……。
 黄色い明かりの灯る室内が、ゆっくりと浮かびあがって来た。




本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-47

「あぁ。
 最高……。
 撮って。
 ミサ、撮って。
 立ちオナする変態女を。
 そう。
 あぁ。
 フラッシュ浴びると、身体が燃えるわ」

 あけみ先生のブラウスが、細かく震え出した。
 指先は、すでに佳境を奏でてるに違いなかった。

「撮って」

 無音の花火のように、フラッシュの光が広がる。

「あひぃ。
 イ、イキそう。
 ミサ?
 わたしって、イヤらしい?
 イヤらしい?
 言って!
 変態って。
 言うのよ!
 変態女って」
「変態」
「もっと!」
「変態!
 あけみ先生の変態!」
「ひぃぃぃぃぃ」

 あけみ先生の腕が、フラメンコギターのクライマックスを掻き鳴らし始めた。

 その時だった。
 シャッターを切ろうとしたわたしの指が、止まった。
 ファインダーの視界の中に、違和感を感じた。
 姿見だった。
 あけみ先生が、女王さまから身を隠すときに使ったという、大きな姿見。
 それが、画角の隅に入ってた。
 さっきまでは、暗い室内を映してたはずの鏡。
 その鏡面が、色を発してる。
 それは、鏡と云うより、縦長の窓に見えた。
 窓の向こうは、昼間。
 でも、何が映ってるのか、はっきりとしない。
 鏡面が、さざ波のように揺れてる。
 石を投げられた池のようだった。
 いったい、どうしたんだろう。

 いまさら気づいて、顔の前からカメラを外した。
 鏡が、理事会室を映してないのは明らかだった。
 鏡面を渡るさざ波が、次第に間遠になっていく。
 矩形の端に見える青は、紛れもなく空だった。
 手前には、白いテーブル。
 そして、テーブルの向こうには……。
 テーブルとは異質の白。
 柔らかい乳白色。
 そう。
 人の上半身。
 明らかに女性だった。
 なぜなら、衣類を着けてなかったから。
 2つの乳房が、焦点を結んでた。
 でも、顔は見えない。
 鏡面は、女性の首までで切れてたから。

「ミサ!
 フラッシュちょうだい!
 早く!」

 わたしは、慌ててカメラを構えた。
 シャッターを切る。
 もちろん、画角に鏡は収めてある。

「熱い……。
 背中が熱い。
 光の精液を浴びたみたい。
 そう。
 わたしのブラウスの背中には……。
 べっとりと精液が貼りついてる。
 ブラウスの裾から垂れた精液が……。
 お尻を伝う。
 ぬめぬめと光りながら、尻の割れ目に潜りこみ……。
 肛門を濡らす。
 そして、会陰を回りこんで、おまんこに入るの。
 あぁ。
 ほら、クリを弄るわたしの指にまで、這いあがってきた。
 あぅぅ。
 この格好で、街の中に出たい。
 精液を、尻たぶからツララのようにぶら下げて、人混みを歩くの。
 わたしを見た男は、ことごとくちんぽを出すわ。
 もちろん、わたしに向かって擦りたてる。
 怒張した亀頭が、わたしを取り囲む。
 射出口が、鈴穴みたいに膨らみ……。
 男たちは、一斉に爆ぜる。
 白濁した精液が、鞭のようにわたしを叩く。
 もちろん、顔面にも。
 栗の花の礫を浴びたよう。
 わたしは、肺の奥まで匂いを吸いこむ。
 それでも、精液の祝福は止まない。
 仰向いた顔に、ブーケのように降り注ぐ。
 全身を包みながら……。
 精液は精液に重なり、厚みを増しながら流れていく。
 わたしは、1本の鑞涙となり……。
 その場に溶け崩れていく。
 あぁ……。
 イク。
 イ、イクから……。
 撮って。
 イク瞬間を……。
 撮って」

 あけみ先生の腰が、ガクガクと前後に振れ始めた。
 尻たぶが絞られてる。
 わたしは、シャッターに指を掛けた。
 でも、その指先が凍りついた。
 ファインダーの中で、鏡面の景色が変わってた。
 さっきまで、テーブルの向こうに座ってた人物が……。
 テーブルの前に立ってた。
 上半身は、鏡面を外れて見えない。
 でも、肌の色合いから、さっきの女性に違いないはず。
 でも……。
 その女性の股間からは、男根が起ちあがってた。
 男根は、女性の臍を隠し、天を向いて突きあがってる。
 それでも“女性”と言うわけは、その男根が、明らかに人造物とわかったから。
 毒を吐く虫のように、ヌメヌメと赤黒い光沢を纏ってた。

「ミ、ミサ……。
 何してるの。
 早く……。
 早くフラッシュをちょうだい」

 女性の指が、画角の上から降りてきた。
 男根に絡みつく。
 真っ白い指と、赤黒い男根。
 それはすでに交合だった。
 女性の二の腕に力が籠るのがわかった。
 同時に、男根が押し倒された。

「ひ」

 わたしは、カメラを取り落としそうになった。
 水平まで仰角を下げた男根の先……。
 怒張した亀頭が、鏡面から突き出てたの。
 わたしは、カメラを抱きしめたまま後退った。

「ミサ!
 ミサってば!」

 男根に続き……。
 鏡面からは、白い足が抜き出て来た。
 塑像のように美しい片脚が、ゆっくりと膝を曲げ……。
 理事会室の床を踏み締めようとしてた。
 そうか……。
 この鏡が入口だったのか。

「美弥子さん……」

「美弥子さん。
 大丈夫?
 ちょっと入れすぎちゃったかな?」

 視界の中央で、人形(ひとがた)が、ゆっくりと焦点を結んだ。
 美里だった。
 目の前には、白いテーブル。
 風を感じた。
 そうだった。
 ここは、マンションのベランダだ。
 ようやく思い出した。
 美里の話を聞きながら、ここでお茶を飲んでいたのだ。
 でも……。
 どうしてこんなに、身体が重いのか。
 空気が、綿飴のように感じられる。

「良かった。
 どうやら、大丈夫そうね。
 いかがでした?
 わたしの入れた特製紅茶。
 眠り薬入り」

 2杯めの紅茶は、リビングから場所を移し、ベランダで楽しむことになった。
 美弥子が、カップを運んでる間……。
 美里がキッチンで、新しい紅茶を入れていたのだ。
 眠り薬とは、いったいどういうことだろう。
 そして、この身体の重さは……。

「ふふ。
 やっぱりそうだ。
 さっきまで、あんなに曇ってたのに。
 ほら、雲が切れて青空が見えてきた」

 美弥子も、片頬に陽光を感じた。
 でも、頸が自由に動かない。

「さてと。
 事情を説明しなきゃならないわね。
 その前に……。
 これ、おみやげ」

 そう言って、美里がテーブルに置いたのは、真新しい新聞だった。
 美弥子の取ってる新聞社のものではなかった。
 朝刊としては薄く、2つに折られた一面の上部一杯に、大きな活字が踊ってる。
 これは……。
 街頭で配られる、号外ではないだろうか?

「ふふ。
 わからない?
 ま、仕方ないわ。
 大丈夫。
 睡眠薬のせいじゃないわよ。
 こんな話、わからなくたって当たり前。
 わたしだって、まだ半信半疑なんだから。
 でも、確かめてみる価値はあると思った」

「いえ。
 確かめるだけじゃダメ。
 実行しなきゃならない。
 実行しなければ、わたしはいったいどうなるのか……。
 判らない。
 だけど、怖かった。
 自分が消えてしまいそうで。
 ふふ。
 ますます判らないわよね。
 じゃ、話を急ぎましょう。
 空も晴れてきたことだし」

 美里は、チュニックの胸ポケットから、矩形のカードを取り出した。
 いや。
 カードではない。
 写真だ。
 大振りなポケットから現れたのは、少し大きめな写真プリントだった。
 美里は、それを美弥子の前に翳した。

「女性が3人写ってるでしょ。
 1人は、畳に仰向け。
 もう1人は、宙吊り。
 2人とも、裸に縄だけを纏ってる。
 3人めは、後ろ姿ね。
 上半身は、オーバーブラウスに包まれてるけど……。
 下半身は剥き出し。
 両脚を“く”の字に開き、縄に打たれた2人の前に立ってる。
 どう?
 わたしの話が、嘘じゃないってわかったでしょ。
 そう。
 この写真は、わたしが撮ったものなの。
 あの理事会室でね。
 でも、ほんとに見て欲しいのは、ここよ。
 見える?
 小ちゃいからね。
 縦長の大きな姿見が写ってるでしょ。
 これこれ。
 どう?
 おかしいでしょ?
 鏡なのに、部屋の中を写してない。
 窓に板を打ちつけられた部屋なのに……。
 ほら、青空が写ってる。
 そして、白いテーブル。
 その上には……。
 新聞。
 もちろん、紙面の文字は読めないけど……。
 見出しだけは読める。
 だって、こんなに大きい活字なんだもんね。
 読めるでしょ?
 『なでしこ 銀』って。
 今朝の試合、見た?
 はは。
 見てないわよね。
 美弥子さんの口から、サッカーの話なんて、聞いたことないもの。
 でも、わたしは見てた。
 これ以上ないほど真剣に。
 ちっとも眠くなかった。
 試合が終わってから、一睡もしてないんだけど……。
 今も、ぜんぜん眠くないわ。
 もうわかったでしょ?
 そうよ。
 この写真は、3年……。
 いえ2年半前に撮られたもの。
 でも、この中に写ってる新聞は……。
 間違いなく、これよ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-46

 理事長の背中が浮きあがった。

「あら。
 手伝ってくれるの。
 この、最後のクリップ、わたしがどこに付けたいか、わかってくださってるみたいね。
 そうよ。
 この鎖は、川上先生と理事長を繋ぐ、架け橋。
 それでは、繋いであげましょうね。
 目の前にぶら下がってる、ここに!
 えい」
「あぎゃぁぁぁぁあ。
 痛い痛い痛いぃぃ」

 川上先生が、悲鳴を噴きあげた。
 わたしは、思わずカメラを抱きしめた。
 カメラの固い肌で、腕に跡が残るほどだったと思う。
 でも、視線は川上先生から逸らせなかった。
 クリップは、川上先生の股間に食いついてた。
 川上先生の痛がりようからすれば、陰毛を挟んでるわけじゃない。
 だとすれば……。

「ほんとに痛い?
 ちゃんと痛覚はあるのね。
 ほら、そんなに暴れると、伸びちゃいますよ。
 あんまりビラビラになっちゃ、彼氏に嫌われちゃうわ」
「痛い。
 ほんとに痛いぃ。
 岩城先生、外して!
 お願い!」
「痛いからやってるんじゃありませんか。
 ほら、そんなに動くと、舌を吊られてる理事長が苦しいでしょ」

 川上先生は、連獅子のように髪を打ち振りながらも、懸命に上体を折り曲げた。
 理事長の舌に、テンションを掛けないための努力だろう。
 しかし、宙吊りで身体を傾けたせいか、逆に下半身が大きく揺らいだ。
 クリップに挟まれた陰唇が、ゴムみたいに伸びるのが、はっきりと見えた。
 チェーンの対岸では、理事長の乳首が、無慈悲に引き伸ばされた。
 2人の顔は、苦しげに歪んだ。
 でもわたしには……。
 縄に括られ、チェーンで繋がれた2つの肉体が、この上もなく美しく見えた。
 すべてを脱ぎ捨て、性器を剥き出した古代の女神。
 わたしは、思わずカメラを構えてた。

「あら、美里。
 写真部員らしくなったじゃない。
 そうよね。
 ここは撮りどこよね」
「くぅ」
「あ。
 待って。
 この女、バイブ吐き出した。
 すっげー膣圧。
 突っこみなおそうか?
 ……。
 やっぱ、いいや。
 この方が、丸見えだもんね。
 これで、まんこから精液零れてたら、最高なんだけど。
 ま、そこまでは無理ね。
 じゃ、撮って」

 あけみ先生は後ずさり、構図の外に消えた。
 画角の中央に、肉のオブジェを収める。
 汗ばんだ両脇を締め、シャッターを切る。
 ミクロコスモスの爆発みたいに、フラッシュが光った。
 吐き出されたフィルムを手に取り、画像が浮かび上がるのを待つ。
 あけみ先生が、脇に寄ってきた。

「出てきた出てきた。
 うん。
 いいよ。
 入部試験、合格」

 あけみ先生は、フィルムを翻し、わたしの眼前に掲げた。

「モデルさんにも見せてあげましょう」

 先生は舞台中央に戻ると、2人の顔の前に、フィルムを翳した。
 2人は目を逸らし、見ようとしなかった。

「ちゃんと見なさいって。
 自分がどんな姿してるか。
 スゴい格好よ。
 楽しみだわ。
 明日朝、一番に来て、これを掲示板に貼り出してあげるわね。
 生徒たち、大騒ぎよ」
「止めて。
 それだけは、止めて」

 川上先生は、上体を伏せたまま、懸命に顔を上げて訴えた。

「それなら……。
 ともみさんを、ここに呼んで。
 あなたたちがお姉さまと慕う、あの人よ。
 2人でいるときなら、来てくれるんでしょ?」
「呼べば来てくださるわけじゃないんです。
 あの方は、み心のままに現れるの」
「はは。
 まるでマリアさまじゃない。
 全裸で交合する、2人のベルナデッタの前に……。
 蝋燭を持った、無慈悲なマリアさまが現れる。
 悪くないわ、この脚本。
 わたしに撮らせてもらえないかしら?
 大冒涜ドラマ。
 ほら、早く呼んで」
「だから……」

「早く呼ばないと……。
 理事長が、苦しみますわよ」

 あけみ先生は、理事長の肩に足裏を置き、前後に揺さぶった。

「はが。
 はがが」

 理事長の舌が、カエルのように引き伸ばされる。

「ほら、痛いって」
「止めて!
 止めてぇ。
 呼びます。
 呼びますから。
 お姉さま!
 お姉さま、助けて!」
「まぁ、呆れた。
 ほんとに呼んだわ。
 恥ずかしくないのかしら。
 ウルトラマンでも呼んでるつもり?
 子供じゃあるまいし。
 美里、ボーっとしてないで、もっと撮って。
 おんなじとこに突っ立ってちゃダメよ。
 写真は、フットワーク。
 脚を使って動き回る。
 いろんな角度から撮るの。
 そう……。
 やっぱ、理事長の下手から舐めあげるショットがいいわね。
 足元に回って。
 行き過ぎ!
 そこまで回ったら、川上先生が半身になっちゃう。
 少し戻る。
 そう。
 ツルツルまんこ、しっかり入れてね」

 わたしは、夢中でシャッターを切った。
 フラッシュが光る。
 ファインダーの向こうの世界が、カメラに吸いこまれる。
 全能感に似た高揚を感じた。
 出てきたフィルムを、電球の明かりに翳す。
 わたしの切り取った世界が、ゆっくりと浮かびあがる。

「ふふ。
 楽しそうじゃない。
 適性があるかもよ。
 よーし。
 それじゃ、ちょっと鍛えてやるか。
 わたしの言うとおり動くのよ」

 あけみ先生は、さまざまな角度からの撮影をわたしに命じた。
 わたしは、指示に追い回されるまま、被写体の周りを巡った。
 何枚か撮るうち……。
 あけみ先生にとっては、わたしも被写体のひとつなんじゃないかって思えてきた。
 あけみ先生の目には、舞台の2人と、それを撮るわたしが入ってる。
 縄で括られた、豊満な全裸の女性が2人。
 それを撮る、小さな尻を剥き出した子供。

「ほら、美里。
 今度は、そっちから。
 また行き過ぎ。
 よし。
 下がって。
 柱のディルドゥ、ちゃんと入ってる?
 巨大なちんぽが、2人を見下ろしてるとこ。
 あ、サラシの布も入れよう。
 精液の象徴みたいになるわ」

 理事長は、無毛の股間を剥き広げ、無防備に仰のいてる。
 両脚は折り畳まれ、赤ん坊がオシメを替えてもらう姿勢だった。
 でも、いくら無毛と言っても……。
 その中心部に穿たれた裂傷は、赤ん坊とはまるで違うものだった。
 さっきまでバイブを咥えてた名残か……。
 陰唇が、わずかに開いて見えた。

 川上先生は面伏せたまま、眉根に皺を寄せてる。
 少年阿修羅と称される仏像のようだった。
 しかし……。
 その首から下は、少年ではあり得なかった。
 縄に区画された胸部では、巨大な乳房が潰されてる。
 腹部には、パン生地みたいな肉の括れが、幾本もうねってる。
 その下には、黒々とした陰毛が、野火の跡のようにに広がってる。
 中心には、まだ火が残ってた。
 そう。
 烟る陰毛を分け、陰唇が覗いてる。
 もっとも印象的なのは、尻から太腿にかけての、圧倒的な量感だった。
 柱の男根が、その尻を指弾するように、宙に突き出てる。
 柱に垂れるサラシが、ほんとに精液みたいに思えた。
 わたしは、構図の縁を裁つように、丁寧にシャッターを切った。

「美里、次はあっちからよ。
 ぼやぼやしない。
 違う!
 どっち行くのよ。
 逆だってば。
 美里!
 ミサ!」

 わたしが“ミサ”と呼ばれたのは、このときが初めてだった。
 そう。
 この瞬間に、わたしは“美里”から“ミサ”に変わったのかも知れない。

「あ」

 フラッシュが光らなくなった。

「電球、使い切ったわね。
 取り替えて来て。
 さっきの引き出しに、もう1本入ってるから」

 新しいフラッシュバーを取って戻ると……。
 あけみ先生は、2人の前に立ち、背中を見せてた。
 と言うより……。
 お尻を見せてた、と言うべきかもね。
 腰で切れたオーバーブラウスの下には、空豆を合わせたみたいな臀部が剥き出てる。
 わたしは、思わずカメラを構えてた。
 3人の女性を構図に入れると、シャッターを切った。
 フラッシュが、遠い日の幻燈のように灯った。
 あけみ先生が振り向いた。

「わたしのこと、撮ったのね。
 ふふ。
 フラッシュ焚かれると、気持ちが昂ぶるみたい。
 モデルさんって、みんなこんな心理になるのかしら?
 脱ぐはずじゃなかったのに、いつの間にか裸になってた、なんて話を聞くけど……。
 ほんとかもね。
 フラッシュを浴び続けると、トランス状態に入っていくのかも。
 なんだか、気分出てきちゃった。
 このまま立ちオナしちゃおうかな。
 オカズは目の前にあるし。
 それも、これ以上無いほど、豪華なオカズ。
 よし。
 わたしがオナってるとこ、後ろから撮って。
 縛られた2人の女をオカズに、立ちオナする変態女。
 斬新な題材だわ。
 始めるわよ」

 あけみ先生は、両脚を開き、腰を沈めた。
 形のいい脚は、膝で“く”の字に曲がり、外側に開いてる。
 いわゆるガニ股の姿勢だった。
 尻のあわいから、わずかに陰唇が覗いてた。
 その陰唇が、引き攣れるみたいに動いた。
 前から回った手が、すでに股間を嬲ってるようだ。
 空豆のような尻たぶが窪み、翳が生まれた。
 翳は、はためきながら息づいた。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-45

 理事長のバイブはそのままに、わたしはその場を立った。
 入口脇のテーブルから、カメラを取って戻る。

「ほら、そこから撮ってごらん。
 ちょっと、待って。
 わたしが構図を決めてあげる」

 あけみ先生は、ファインダーの視界から外れると、わたしの真後ろに回った。
 わたしの肩越しに、畳の舞台を眺めてる。

「ははは。
 こんな構図でシャッター切れるの、一生に一回かも知れないわよ。
 ほら、構えて。
 柱のディルドゥも入れてね。
 天狗様みたいに、2人のまんこ狙ってるとこ。
 ほら、川上先生、顔上げて」
「撮らないで。
 お願い、撮らないで」
「わがまま言わないの。
 理事長は、ちゃんと顔上げてますよ」

 舌をクリップで吊りあげられてる理事長は、顔を隠すことが出来ない。
 川上先生は、懸命に面を伏せ続けた。

「言うこと聞かないモデルさんね。
 仕方ないか。
 これで撮りましょう。
 はい、お2人さん、いきますよ。
 美里、しっかり構えて。
 両脇を締める。
 そうそう。
 はい、チーズ」

 遠い恒星の爆発みたいに、フラッシュが光った。
 あたりを一瞬だけ照らして、電球は潰れた。
 カメラの前部から、フィルムが吐き出される。
 あけみ先生の手が、わたしの肩越しに伸び、フィルムを取り上げた。
 先生は、わたしに負ぶさるような姿勢のまま、フィルムを掲げた。
 先生の体温を、背中に感じた。
 剥き出しのお尻に、先生の太腿が吸いついてる。

「ほーら、出てきた出てきた。
 美里。
 入部試験、合格よ。
 綺麗に撮れてる。
 残念ながら……。
 お股の糸は、落ちちゃったみたいだけど。

 モデルさんにも見せてあげなきゃね」

 あけみ先生の体温が、背中を離れた。
 イエローカードのようにフィルムを掲げながら、2人のいる舞台に戻った。

「ほら、理事長。
 ご覧になって」

 フィルムを目の前に翳された理事長は、顔を歪めた。

「ツルマンに突っこまれたバイブまで、はっきり写ってるでしょ?
 お顔もちゃーんと撮れてる。
 これなら、誰が見ても理事長だってわかりますわ。
 明日、学校に掲示してあげましょうか?
 生徒たち、大騒ぎよね」

 理事長は、泣き顔でしか答えられなかった。
 あけみ先生は頬骨で笑うと、理事長の視界からフィルムを抜きあげた。
 次にフィルムが翳されたのは、川上先生の顔前だった。

「ほら、先生。
 綺麗に撮れてるでしょ。
 どうしたの?
 ちゃんと見なさいよ」

 川上先生は、額に皺を寄せたまま、フィルムを見ようとはしなかった。

「いけませんね。
 現実から目を逸らしてちゃ。
 これが、今のあなたなのよ。
 素っ裸で吊り下げられながら……。
 おまんこを、茹で肉みたいに濡らしてる。
 そうでしょ?」

 川上先生は、口をへの字に歪め、かぶりを振った。

「正直になりなさい。
 楽になれるわよ。
 言ってごらん。
 わたしは変態ですって。
 言いなさいってば」

 あけみ先生は、川上先生の髪を掴み、フィルムを眼前に突きつけた。
 川上先生は、目をつぶって拒み続けた。

「見なさい」

 あけみ先生は、フィルムを川上先生の顔に押しつけた。
 顔面にシールを貼るように、手の平で擦り付ける。
 手の平を外すと、フィルムは一瞬だけ川上先生の顔に留まった。
 上半分を白い矩形で隠された顔は、死者を表す記号のように見えた。
 でも、皺の寄ったフィルムはすぐに顔を離れ、翻りながら畳に落ちた。

「ほんと、素直じゃないわね。
 本気で腹立ってきた。
 徹底的にお仕置きだわ。
 さてと。
 次は、どことどこを繋いであげましょうかね。
 ほーら、今度はこれよ」

 あけみ先生は、畳から新たなチェーンを拾い上げた。
 片側のクリップを摘んで、チェーンを吊り下げる。
 先生は、クリップを揺らして見せた。
 下のクリップが触れ合って、かちゃかちゃ音を立てた。
 下のクリップは、ひとつじゃなかったの。
 つまり、上のクリップからは、チェーンが2本下がり……。
 それぞれの先に、クリップがひとつずつ付いてた。

「じゃぁ、まずは……。
 舌だけ挟まれて可哀想な、理事長からね。
 今度は、気持ちいいとこ挟んであげますよ。
 どこがいいですか?
 やっぱり、おまんこ?
 でも、それは贅沢ですわよ。
 おまんこは、バイブを口いっぱい頬張ってるじゃありませんか。
 どこがいいかなぁ……。
 なんて。
 ほんとは、最初から決めてるんだけどね。
 それはもちろん……。
 格好のいい、この乳首。
 大きさといい形といい、完璧よね。
 いかにも吸ってくださいって感じ。
 じゃぁ、クリップで挟みやすいように……。
 勃起させてあげましょうね」

 あけみ先生は、束ねた指先を、ゆっくりと乳首に近づけた。
 子供が、ケーキのトッピングを摘もうとする仕草に見えた。

「えい」

 指先が、乳首を捉えた。
 理事長の腹筋が浮きあがる。

「あれ?
 ひょっとして、すでに勃ってます?」

 理事長は動かせない顔を懸命に歪め、否定の意志を表してた。

「うそおっしゃい。
 バイブ突っこまれて、乳首まで勃ててたんだわ。
 ヤラしい女。
 そんなにお待ちかね?
 じゃ、クリップの大顎に捧げる前に……。
 ちょっとだけ、気持よくしてあげる。
 ほーら。
 どう?」

 あけみ先生は、小指を除く4本の指先を束ねた。
 小指だけが、いたずら小僧のように跳ねあがってる。
 4本の指先が乳首を摘みながら、擦り合わされ始めた。
 波間に揺れるイソギンチャクみたいだった。

「いいでしょ?
 指の腹が、乳首を刺激し……。
 指の先が、乳輪を刺激する。
 ほら、乳輪の突起まで起ちあがった。
 指先に当たる当たる。
 このブツブツ、何て云うかわかる?
 わからない?
 そう。
 覚えておきなさい。
 モントゴメリー腺。
 刺激を受けると飛び出て来るの。
 乳首と乳輪を保護する皮脂が、ここから出るのね。
 大事な器官よ。
 ほーら、理事長。
 気持ちいいですか?
 こちょこちょこちょ」
「は、はんがはんが」

 理事長の腿裏に、稲妻のように腱の筋が走った。
 爪先の指が、色を変えて折りたたまれた。

「このままイッちゃえそうね。
 それじゃ、ストーップ」

 あけみ先生の指先が止まり、ゆっくりと乳首を離陸した。

「ほら、美里。
 見てみ。
 勃起した女の乳首って、魅力的よね。
 モントゴメリー腺が、またいいわ。
 見てるだけで、背中がさわさわしてきそう。
 男だったら、これをオカズに、何本でも抜けそうよ。
 理事長?
 どうしました?
 そんな切なそうな顔して。
 もっと弄ってほしいの?
 でもそれは、あまりにも欲深い心根ですわよ。
 まんこ一杯に頬張りながら、乳首も弄れなんてね。
 いいこと。
 いい目を見たあとには、辛い見返りがあるものなの」

 あけみ先生は、クリップを吊りあげると、理事長の顔の上に垂らした。
 クリップの先が円を描くと、理事長の瞳がそれを追って動いた。
 頬に、翳のような引き攣れが走る。
 怖いのは無理もなかった。
 金属製のクリップは、無慈悲な輝きを撒き散らしてる。
 あけみ先生の指先が、チェーンを手繰る。
 クリップは、主人にだけ従順な犬のように、先生の手に収まった。

「それじゃ、いきますよ」

 あけみ先生は、口角を上げたまま、耳の脇にクリップを構えた。
 笑う招き猫みたいだった。
 耳の脇で、クリップの口が開いた。

「ひぃぃ」

 理事長の口から、掠れた草笛が聞こえた。
 両目が大きく見開かれ、瞳が溺れるように震えてる。
 あけみ先生の腕が、ゆっくりと降りていく。
 クリップの軌跡が、震える乳首へ一直線に伸びる。

「えい」
「はぎぃ。
 はんがはんが」

 クリップの大顎が、乳首を噛んでた。
 ボールみたいに形の良かった乳首は、無残にひしゃげてる。

「ふふ。
 これで、母乳噴いてくれたら、最高なんだけど。
 ま、そこまでは無理よね。
 それでは、片方だけじゃ可哀想だから……。
 もう一つの乳首にも、付けてあげるね。
 そのために、クリップが2つ付いてるんだから。
 それ」
「はんぎ。
 はんぎぃ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-44

「美里。
 理事長が、バイブ突っこんでほしいんだって。
 ほら、これ持って足元に回って。
 あ、待った。
 湿らせてあげないと、可哀想ね」

 言うなり、あけみ先生は、バイブを口いっぱいに頬張った。
 バイブに纏わる舌に押しあげられ、頬肉がうねりながら動いてる。
 潤んだ瞳に、喜色がさざなみのように浮かんだ。
 刹那、先生の顔が上下動を始めた。
 ピンク色のバイブが口中を出入りする。
 先生は、激しくうなずき続けながら、わたしの視線を絡み取った。
 切ることを許さない眼差しだった。
 でも、先に視線を外したのは、先生だった。

「おげぇぇ」

 先生は、バイブを吐き出すと、背を折ってえずいた。

「げほげほ。
 はは。
 突っこみすぎちゃった。
 涙出てきた。
 でもこれで、根元まで湿ったわ。
 ほら、美里。
 これ持って、理事長の足元に回って。
 そうそう。
 突っ立っててどうするのよ。
 しゃがむの。
 そしたらまず……。
 理事長のまんこチェック。
 濡れてる?
 見てたってわからないでしょ。
 触って調べる」

 陰毛を剃りあげられた理事長の性器は、驚くほど綺麗だった。
 小さな陰唇が、おちょぼ口みたいに開いてる。
 わたしは、恐る恐る指を伸ばした。
 指が触れた瞬間……。
 理事長の肛門が、シャッターのように絞られた。
 指先には、はっきりと湿り気が感じられた。

「どう?
 濡れてるでしょ?
 やっぱり。
 高飛車な女って、本性はドマゾだったりするものなの。
 自分がそうされたいという願望を、他人にぶつけてるのね。
 だからほんとは、こういうシチュが大好き。
 そうよね?
 理事長先生」

「ほほ。
 無理にうなずかなくてもいいんですよ。
 舌が痛いでしょう?
 お気持ちは、ちゃーんと汲み取りましたから。
 美里。
 中までチェックして。
 指突っこむのよ。
 いくら小さくても、処女のわけないんだから、大丈夫よ。
 理事長、いかがです?
 生徒に指を入れられるお気持ちは?」
「岩城先生、お願い!
 そんなことさせないで。
 棚橋さん、止めて」

 川上先生の声に、わたしの指が止まった。

「あら、妬いてるの?
 それとも、自分の方が先に入れられたいのかしら?」
「違います!」
「そんなこと言いながら、乳首おっ勃ててるくせに」
「してません。
 クリップが……」
「わたしの言ってるのは、挟んでない方の乳首のこと。
 ギン起ちじゃないの」

 川上先生は、顔を伏せたままかぶりを振った。
 豊かな髪が、闇を揺らした。

「触ってあげましょうか?」
「止めて!」
「ふふ。
 きっと声が出ちゃいますもんね。
 恥ずかしいわよね。
 なんなら、舌にもクリップしてあげましょうか?
 あら、それも嫌なの?
 わがままな先生ね。
 じゃ、おとなしく見てなさい。
 大好きな理事長先生が、生徒にバイブ突っこまれるとこ。
 美里。
 指はもういいから、いきなり突っこんじゃって。
 大丈夫。
 2人とも、立派な変態だから。
 まんこの準備は、とっくに出来てるわ。
 もたもたする子は嫌いよ。
 出来ないなら、あんたに突っこむからね。
 早く!」

 あけみ先生の冷たい声に、涙が滲みそうになった。
 でも、どうしてわたしは、逃げ出そうとしなかったんだろう。
 逃げようと思えば、いつでも出来たのに。
 やっぱり、あの旧校舎の記憶を共有する先生が、わたしにとっては特別な存在だったんだろう。
 それに……。
 ひょっとすると、ともみさんに会えるかも知れないし。
 話しかける相手もいなかったわたしに、初めて出来た2人の友達。
 友達っていうのも変だけど。
 でも、あのころのわたしには、この2人のほかに寄り添える人はいなかった。

「美里!」

 わたしは、バイブを握り直した。
 先端を、理事長の陰唇に宛がう。
 理事長の腿裏に、腱が走った。
 張り詰めた縄が、弦のように響いた。
 わたしは、手元を一気に押しこんだ。

「はひぃ」

 理事長が、風に似た声を立てた。

「ほほ。
 ずいぶん、思い切り良く突っこんだわね。
 理事長もお悦びだわ。
 そのまま、ゆっくり出し入れしてごらん。
 そうそう。
 上手上手」
「はが。
 はががが」

 理事長の腹筋が、甲板のように浮きあがった。

「ふふふ。
 いかがです?、理事長。
 生徒に犯されるご気分は?
 そのままイカされてみます?
 美里、もう片方の手で、クリ弄ってあげて。
 指先を揃えて、クリに載せて……。
 注射跡を揉むみたいに、やさしく捏ねてあげて」

 言われたとおり、束ねた指先をクリの上から宛てがった。
 指の腹には、明白なしこりが感じられた。

「どう?
 勃起してるでしょ?」

 わたしは、思わず頷いた。
 理事長の顔が、悲しそうに歪んだ。

「動かして。
 恥丘ごと押し回す感じよ」

 理事長の首が起ちあがった。
 わたしを真っ直ぐに見る瞳には、哀願のさざなみが揺れてた。

『お願いだから、動かさないで』

 理事長の瞳は、そう言ってるように思えた。

「ほら。
 理事長、お待ちかねよ。
 回して。
 自分ので、毎日やってるでしょ」

 わたしは、押しつけた指先を、ゆっくりと始動させた。
 力を徐々に加えながら、指先に円を描かせ始める。

「ひぃぃ」

 北風みたいな声とともに、理事長の頭が仰け反った。

「ほーら、来た。
 変態ショーの、始まり始まり。
 川上先生?
 いかがです。
 ちょっと、なに顔逸らしてるのよ。
 ちゃんと見なさいって。
 嫌なの?
 そうよね。
 大好きな理事長のまんこが、誰かに弄られてるんですものね。
 しかも、理事長は……。
 気分出しちゃってる。
 ほほほ」

 川上先生は、顔を伏せたまま、首を横振り続けた。

「はんが。
 はんがぁ」

 理事長が、鼻濁音を噴きあげ始めた。

「豚さんみたい。
 よっぽど気持ちいいのね。
 視線が飛んじゃってますわよ。
 ほら、川上先生、見なさいって。
 言うこと聞かないんなら……。
 理事長の肛門に突っこませるからね。
 いいの?」

 川上先生は、さらに激しく首を振った。

「なら、見なさい。
 顔上げて。
 そう」

 額に切なそうな皺を刻みながら、川上先生の顔が上がった。
 視線が、わたしの手元に落ちた。

「どう?
 気持ち良さそうでしょ?
 あなたもされてみたい?」

 川上先生は、再び首を振った。
 でも、その目線は、わたしの手元からブレようとしなかった。

「うそおっしゃい。
 うらやましくてしょうがないくせに。
 言ってごらん。
 わたしにも入れてくださいって。
 わたしのクリも弄ってくださいって」
「はんぐぅ。
 はんが、はんががが」
「ほら、理事長、イッちゃいそうよ。
 言ってごらんって。
 わたしのも弄ってって」

 川上先生は、全身を捩りながら首を横振った。
 豊かな髪が、闇に墨汁を撒き散らす。

「ははははは」

 あけみ先生が、仰け反りながら笑った。
 指先が持ちあがり、川上先生の股間を指した。

「身体は正直ね。
 美里、ほら見て。
 垂らしたわよ、この女。
 まんこから、糸引いてる」

 あけみ先生の指先から逃れるように、川上先生は身を捩った。
 もちろん、逃れるすべはない。

「ほーら。
 垂れてく垂れてく。
 川上先生。
 恥ずかしがることありませんよ。
 すっごく綺麗」

 そのとおりだった。
 川上先生の股間から垂れる糸は、まるで天上から下がる蜘蛛の糸だった。
 身じろいだせいで揺れる糸は、電球の明かりを返して銀色に光った。

「そうだ。
 写真!
 美里、カメラカメラ。
 早く取ってきて」

 そんなこと言われても……。
 わたしは、手元のバイブに目を落とした。

「それはそのままでいいから。
 その方が絵になるでしょ。
 早く!
 糸が切れちゃうじゃない」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。