放課後の向うがわⅡ-22


 あけみ先生は、川上先生に近づいた。
 川上先生は、顔を背けたまま動かない。
 あけみ先生は、ゆっくりと上体を折ると、川上先生の髪に鼻を埋めた。

「いい香り……」

 川上先生は懸命に頚を折り、逃れようとした。

「そんなに嫌がらなくてもいいでしょ。
 そう言えば、思い出した。
 バスの中で、一度だけ痴漢シーンを見たことがあるの。
 でも、あれは痴漢行為とは云えないのかな?
 だって、女性は気づいてなかったんだから。
 若い女性だったんだけど……。
 その後ろに、男が立ってた。
 ちょっとくたびれた、失業中みたいな感じの中年男。
 そいつがね、若い女性の後ろから、髪の匂いを嗅いでるの。
 もちろん、鼻を突っこんだりはしてなかったけど。
 うっとりと目を閉じて、ほんとに気持ちよさそう。
 ていうか、ほんとに気持ち良かったんだと思う。
 だって、右腕のジャンパーの袖が、小刻みに動いてたもの。
 あれは絶対、袖から出た手が、自分のちんぽ弄ってたのよ。
 ひょっとしたら、フィニッシュまでいっちゃったかも?
 女性のスカートのお尻には、工作用の糊みたいなのがベッタリ?

 ほほ。
 その時の男の気持ち、今わかったわ。
 女性の後ろから、髪の匂いを嗅ぐって、こんなにいいものなのね。
 わたしもこのまま、しちゃおうかしら。
 あの時の男みたいに。
 でも、精子をかけられないのが、ほんとに残念。
 せめて、こすりつけようかしら。
 そのまんまるなお尻に、おまんこのお汁を」

 あけみ先生は、腰を突きつけるように、にじり寄った。

「い、いやぁぁ」

 川上先生が悲鳴を噴きあげ、身を捩った。

「ゆうちゃん?
 ゆうちゃんなの?」

 振り返ると、理事長が懸命に頚をもたげてる。

「理事長先生。
 助けて……」
「どうして……。
 どうして、ゆうちゃん……。
 いえ、川上先生にまで、こんなことするの!
 岩城先生、どうして!」

「ふふ。
 ゆうちゃん、か。
 まさか……。
 学園の理事長と英語教師が……。
 レズビアンの関係にあるなんてね。
 驚いちゃうわよね」
「そんな!
 違います」
「違いません。
 だってわたし、見ちゃってるんだもの。
 お2人のお熱い場面。
 鼻の穴膨らませて、ふーふーいいながら、はしたないことしてらっしゃいましたよね。
 ここで」
「ウソ……」
「ウソじゃないことは、お2人が一番ご存知でしょ。
 なんなら、証拠を見せましょうか?
 佳境の場面の写真、撮ってありますのよ」
「目的は何なの?
 岩城先生、これは明らかに犯罪よ。
 こんなことまでして、どうしようって言うの!」
「どうしようかしら?
 何されたい?
 最後は、2人の愛の集大成に、心中させてあげましょうか?
 わたしがお手伝いしますわよ。
 このロープで。
 お2人の細い頚を並べて縛って、締めあげてさしあげます。
 お2人は、頬を寄せ合いながら……。
 互いの顔から、目玉や舌が飛び出すのを見届けて死んでいくの。
 噴きあげる便臭の中でね。
 どう?」
「狂ってる……。
 狂ってるわ」
「そうよ。
 だから、ほんとに何するか、わからないわよ」
「助けてあげて。
 川上先生だけは、助けて」
「ゆうちゃん、でしょ?
 言ってご覧なさい」
「……ゆうちゃんを、助けて」
「まぁ、妬けちゃうわね。
 でも、理事長。
 こんな目にあってるのは、そのゆうちゃんのせいなんですのよ。
 この塔への鍵をわたしにくれたのは、川上先生なんですもの」
「ウソです!
 そんなこと、してません!」
「したのよ。
 もちろん、そんなつもりは無かったんだろうけど」

 あけみ先生は、オーバーブラウスのポケットから、鍵束を取り出した。
 2人に見せつけるように指先で吊るし、鈴のように振ってみせる。
 擦れあった鍵は、しゃらしゃらと儚い音を立てた。

「夏休みに、更衣室のロッカーが入れ替えられたでしょ。
 前のロッカーは、ほんとに酷かったですよね。
 あんなところに予算をケチって、旧校舎のロッカーが転用されてたんですもの。
 でもさすがに、鍵の無くなったのやら、扉が閉まらなくなったのが多くなって……。
 ようやく新品に入れ替えられることになった。
 搬入は、夏休み。
 でもその日、搬入に立ち会うはずだった事務員が休んじゃったのね。
 ま、父親が急死したんじゃ仕方ないわ。
 で、たまたま事務員からの電話を受けたわたしが、代わりに立ち会うことになったわけ。

 立ち会うったって、大したことするわけじゃないの。
 ここに入れてくださいって、業者さんを案内して……。
 後は、設置後に検収するだけ。
 何事もなく終了したわ。
 新しい金属の匂いが、部屋いっぱいに広がってた。
 で、業者さんに御苦労さまでしたって言おうとしたら、鍵をひとつ渡されたの。
 もちろん、個々のロッカーに掛かる鍵は、それぞれ鍵穴にぶら下がってる。
 リングで繋がれたスペアキーも一緒にね。
 首を傾げたわたしに、業者さんは、その鍵の役割を説明してくれた。

 マスターキーだったのよ。
 今時のロッカーでは普通らしいけど、思いもつかなかったわ。
 つまり、個々の扉は、それぞれの鍵で開け閉めするわけだけど……。
 ほかにもうひとつ、すべての扉を開閉できるキーがあったわけ。

 そのときは感心しただけで、スカートのポケットに仕舞ったんだけどね。
 もちろん、その鍵をどうこうしようなんて、考えもしなかった。
 事務員が復帰したら、渡すつもりだったわ。
 でも、父親の葬儀だから、忌引きが長かったのよ。
 で、ポケットに入れたまますっかり忘れちゃって……。
 そのスカート、たまにしか穿かないやつだったから、ずっとワードローブに下がったまま。
 気づいたのは、スカートをクリーニングに出そうとしたときだった。
 鍵を受け取ってから、10日も経ってた。
 そうなると、今さら出しにくいわよね。
 マスターキーをずっと持ってたなんてことが知れたら、なに疑われるかわからない。

 それに……。
 事務員を始めとして、マスターキーがどこにあるかなんて、誰ひとり聞かなかったのよ。
 つまり、新しいロッカーにマスターキーがあるってこと、誰も知らなかったわけでしょ。
 そんなら、最初から無かったことにすればいいやって……。
 机の奥に仕舞っちゃった。
 そんときは、それでお終い」

「あれは、2学期が始まったばかりのころだった。
 放課後。
 川上先生の後ろ姿を見かけた。
 ぷりぷりのお尻を見送ってると……。
 先生は、真っ直ぐに塔への扉に向かって行った。
 あの塔は、一般教師には無縁の場所のはず。
 不思議に思って見てると……。
 川上先生は、扉の前まで来て振り返る素振りを見せた。
 あわてて、廊下の曲がり角に身を隠した。
 わたしがコソコソしなきゃならない理由は無いんだけどね。
 でも、川上先生の挙動には、そうさせる怪しさがあったの。

 好奇心が抑えられず……。
 角から偶然出てきたって感じで、もう一度廊下に踏み出した。
 川上先生は、もう背中を向けてた。
 で、ポケットから何か出すと、それを扉に差しこんだ。
 扉が開いた。
 驚いたわ。
 一般教師が、塔への鍵を持ってるなんて。
 川上先生が扉の向こうに消えた後……。
 扉に駆け寄り、ノブを回してみたけど、開かなかった。
 向こう側からロックしたのね。

 俄然、探究心が湧いた。
 どうして、わたしより後輩の川上先生が、塔への鍵を持ってるのか。
 川上先生が鍵を差しこんだとき、手の平から革のストラップが下がってるのが見えた。
 そのストラップには、見覚えがあったの。
 すぐに思い出したわ。
 更衣室で見たんだって。
 わたしと川上先生のロッカーは、通路を挟んで向かい合ってる。
 つまり、ロッカーを使うときは、背中を向けてるわけだ。
 偶然、更衣室で一緒になることも、珍しくはなかった。
 お互い後ろを向いて他愛ない話をしながら、わたしは川上先生の背中を見てた。
 なぜ見えるかと云うと……。
 ロッカーの扉の裏には、小さな鏡が付いてるから。
 扉を一杯に開いてると、真後ろが見えるのよ。

 鏡に映る背中は、ほんとに魅力的だった。
 豊かな肉付きが、ブラウス越しにも見て取れた。
 真っ白いうなじから続く肌を想像する。
 きめが細かくて、手の平を当てたら、しっとりと吸い付くんじゃないかってね。
 男だったら、絶対に襲いかかってたわね。
 実際、2人きりのときは、妙な気が起きかけて困ったわ。
 知らなかったでしょ?
 他愛ない話をしながら……。
 わたしが頭の中で、何を考えてたかなんて」

 ふふ。
 ここでわたしが、いきなり裸になったら……。
 この先生はどんな反応するかしら、なんて妄想してたのよ。
 ま、実際にやったら……。
 呆れられて逃げられるだけでしょうけど。
 妄想の中ではそうはいかない。
 そう。
 妄想の中のわたしは、半陰陽。
 つまり、両性具有。
 クリトリスが、長大な男根に変化してるの。
 わたしは、手早く服を脱いでいく。
 ボタンを外す指がもどかしく震える。
 ブラウスとブラをロッカーに放りこみ……。
 スカートを下ろす。
 ショーツのウェストから、男根が顔を覗かせてるのが見えた。
 射出口から漏れた先走り汁が、ストッキングを濡らしてる。
 ストッキングごとショーツを下ろす。
 踏みつけて脱ぐわ。
 晴れて全裸になれたわたしは、男根を握り締める。
 鏡の中の先生は、まだわたしの変貌に気づいてない。
 わたしは、おヘソまで届く男根を吊り上げたまま、操縦桿のように振り回す。
 男根を追って、わたしの身体も反転する。
 川上先生の背中が、目の前にあった。
 わたしの手の平は、すでに男根を擦リ始めてる。
 そのまま、背中に近づいてく。
 ようやく気配を感じたらしい川上先生が、後ろを振り向く。
 笑顔のまま、顔が凍り付くわね。

「川上先生……。
 やっと見てくださいましたわね。
 どんなご感想です?
 男根をおっ勃てた女が……。
 あなたを見ながら、擦ってるんですのよ」
「……」

 先生の顔から、笑顔の仮面が剥がれ落ちる。
 恐怖と嫌悪の表情を隠そうともせず、先生は身を翻す。
 でも、わたしは逃さない。
 逃げようとする腕を掴む。

「離して!
 痛い痛い」

 そう。
 両性具有のわたしは、男性の膂力を持ってるの。
 腕を捻りあげられ、川上先生は膝を折る。
 その背中を押しつぶすと、先生はあっけなく床に突っ伏した。
 でもすぐに、這って逃げようとする。
 その肩を捉えて、身体ごと裏返す。
 逃げる間を与えず、馬乗りになる。
 抵抗して振りあげる両手首を掴むと、もう先生は身動き出来ない。
 大きく起伏する胸の上で、男根が上下に振れてる。

「川上先生……。
 わたし、ずっと先生に興味ありましたの。
 もちろん、性欲の対象として。
 今日はもう、我慢できませんわ。
 おわかりになるでしょ?
 ちんちんが、こんなに大きく膨らんじゃって……。
 先生のおまんこに収まりたいって、ピーピー泣いてるんですもの。
 ちんちんの願い、叶えてくれませんか?
 そうすれば、決して乱暴なことはいたしませんわ。
 ほんのいっとき、おまんこをお貸しくださるだけでいいの。
 わたしのちんちんが射精するまでの、ほんのいっとき。
 先生のおまんこの中に、臭い精液を、いっぱい出させていただきたいの」
「い、いや。
 いやぁぁぁぁ」
「うるさい!」

 わたしは、手首を掴んだ手を離すと、思い切り振りかぶる。
 頬骨に打ち下ろす。
 芯まで響く音と共に、先生の顔は真横を向く。

「痛いぃぃぃぃ」
「痛いでしょう?
 これが、男性の力よ。
 もう一発、味わってみる?」
「ひっ」

 わたしが、腕を振り上げると、先生の顔は幼児のように歪んだ。
 思ったとおり、痛みには屈服するタイプね。
 眉根に皺を寄せて、目をつぶっちゃってる。
 そのあからさまな恐怖が、わたしの嗜虐心に火をつけるの。
 もう片一方の手首を離すと、反対側の頬に打ち下ろす。

 ビシイッ!

 肉塊を叩く湿った音が響く。
 先生の顔は反対側を向き、ノドまで伸びちゃってる。

「あぅぅぅぅ」

 その顔はもう、人の言葉を発せないほど、苦痛と恐怖に支配されてた。
 わたしは、容赦なく腕を振るう。
 大鎌となったわたしの腕は、弱々しく遮ろうとする両手を、葦のように薙ぎ払う。

 バシッ!
 ビシッ!

 湿った厳しい音が数度響くと、先生はもう放心状態。
 涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔から、魂が飛んじゃってる。
 半開きの唇が弱々しく震え、齧歯類みたいな前歯が覗いてる。
 小動物を嬲る獣の歓びが、お腹の底から突きあがる。
 真っ白なブラウスに両手を掛けると、左右に引き千切る。
 弾け飛んだボタンが、噴水めいた軌跡を見せて視界の外に消えて行く。
 現れたのは、真っ白いふたつの丘。
 もちろん、ブラで隠されてる。
 わたしの両手がワイヤーにかかると、真上に捲りあげる。
 ブラと変わらないほどの真っ白い肉球が転び出る。
 その頂点には、トッピングみたいな大ぶりの乳首。
 でも、スライスした生ハムのような、綺麗な肉色。
 わたしは、思わず両手の指で摘む。
 指の腹で潰しながら、捻る。

「先生……。
 こんなことされながら、乳首が起っちゃいましたよ」
「う、うそです」

 先生は、ようやく放心状態から脱したみたいで、再び抵抗を始めた。
 華奢な指が、わたしの前腕を掴む。
 わたしは、苦もなく振りほどくと、腰を浮かし……。
 先生の身体を反転させる。
 うつ伏せになった先生の背中から、ブラウスを剥ぎ取る。

「綺麗な背中。
 こんな背中には、ブラなんて無粋なもの似合いませんわ」

 ブラのホックを外し、両腕から抜きあげる。

「この背中に相応しいのは……。
 縄。
 こんなふうに」

 妄想って便利よね。
 川上先生の背中には、一瞬にして縄が打たれた。
 縄に括られた腕が、芋虫みたいに蠢く。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。