放課後の向うがわⅡ-32


 中を掻き回す気にならなかったので、一番上に載ってた赤いバイブを手に取った。

「それにする?
 ちょっとおとなしめだけど、ま、いいか。
 持ってきて」

 赤いバイブは、本体と電池ボックスが別になってた。
 コードでつながってる。
 両手を伸ばして、捧げるように先生に手渡す。
 間近で見るのが、ちょっと怖かった。

「この子も、だいぶレトロ感が出てきたわね。
 今のバイブは、たいがい本体に電池が内蔵されてるから。
 でも、別になってる方が、軽くて使いやすいのよ」

 先生は、男性器を象った本体に鼻を近づけた。

「おー、臭さっ。
 使いっぱなしだから、強烈に臭うわ。
 あなたも、手に臭いが着いたかもよ」

 わたしは、手のやり場に困った。
 ブラウスで拭く気にもなれないし。

「どっちで持ってた?
 右だっけ?
 嗅いでごらん、手の平。
 汚くないでしょ。
 わたしのなんだから。
 ほら、手の平を鼻に持ってきなさい。
 そう」

 わたしは、近づけた手の平を、思わず遠ざけた。
 唾の乾いたような臭いがした。

「ふふ。
 やっぱ、臭い?
 ちゃんとお手入れしなきゃダメね。
 消毒用エタノールで拭くといいのよ。
 スプレーボトルに入ってるやつがあるから。
 あれをシュッシュとやって、ティッシュで綺麗に拭いてから仕舞いましょうね。
 でも……。
 この臭いが、癖になるのよね。
 あー、いい臭い」

 先生は、バイブを横にして、鼻下に近づけた。
 鼻を左右に滑らせる。
 ハーモニカを吹いてるみたいだった。

「知り合いの男でね。
 中学校のころ、オナニー覚えて……。
 ティッシュで始末しなかったってヤツがいたの。
 出した精液、どうしてたと思う?
 タオルで拭いてたのよ。
 それも、洗濯しないままの同じタオルで。
 なんでそんなことしたのかって云うと……。
 最初のオナニーで出した精液を拭いたのが、そのタオルなんだって。
 そのときは、オナニーしてるつもりなんかなくて……。
 なんとなく、ちんちん弄ってたら……。
 突然ヘンな気分になって、ちんちんから白い液が出た。
 で、慌てて、手近にあったタオルで拭いたんだって。
 以来、オナニーが病みつきになったわけだけど……。
 毎回、そのタオルで拭いた。
 ティッシュで拭こうという考えが、不思議と浮かばなかったんだってさ。
 男性は、最初の女が忘れられないって云うけど……。
 そいつにとっては、タオルがその人だったのかも?
 で、毎回毎回、タオルで拭いて……。
 そのタオルは、ベッドと壁の隙間に隠してた。
 もちろん、洗わないんだから、タオルは悲惨な状態になってく。
 糊で固めたみたいにガビガビだったって。
 白かった生地にも、ベージュや薄茶の染みが広がってく。
 何より強烈だったのが、臭いだそうよ。
 でもね。
 オナニーするとき、その臭いを嗅がずにはいられなくなったんだって。
 で、毎回、ガビガビのタオルに顔を埋めながら……。
 オナるようになったそうな。

 はは。
 わたし、何が言いたかったんだろ?
 とにかく、臭いってのは、記憶に灼きつくものなのよ。
 それも、深い部分にね。
 このバイブも一緒。
 この臭いを嗅いでるとね……。
 うんこ漏らしそうなほど興奮するの」

 先生の片手は、いつの間にか自分の股間に回ってた。

「あぁ。
 やっぱり、立ちオナっていいわよね。
 精神的に昂まって。
 たった一度だったけど……。
 このバイブ持って、夜の公園に行ったことがある。
 まだ、若くて可愛かったころよ。
 素っ裸にワンピだけ着て。
 で、茂みの中でバイブを取り出し、立ったまま突っこむ。
 めちゃめちゃ興奮したわ」

「途中から、もうどうなってもいい気がして……。
 ワンピも脱いだ。
 素っ裸。
 ガニ股で、声まで出してお尻振ってると……。
 あっという間にイっちゃった。
 遠くに見える水銀灯の明かりが、人魂みたいに揺れて見えた。
 わたしの記憶に残る、青春の1シーンね。
 あー、思い出してきた」

 先生は、その場にしゃがみこんだ。
 和式便器を使う姿勢から、さらに両膝を開いた。

「見て」

 先生は、股間を覆ってた手の平を、肌を滑らせながら引きあげた。
 陰唇が、しゃぶしゃぶの肉みたいに湯気を立ててる。
 その上には、剥き出しのクリトリスが、一つ目小僧のようにわたしを睨んでた。

「どう?
 可愛い子が見えてる?
 どんな憎たらしい女でも……。
 クリだけ見てると、不思議と愛しさが湧いてくるものよ。
 でも、今この子を苛めたら、あっという間にイッちゃいそう。
 がまんがまん」

 先生は、包皮を引き上げてた手の平を外した。
 クリトリスは、柔らかい皮の帽子を被った。
 写真でしか見たことないけど……。
 なぜだか、雪の中で咲くザゼンソウを思い出した。

「でも、理事長のが十分湿ってないと、痛いかも知れないわね。
 だから……。
 わたしのお汁でヌメヌメさせてあげましょうね」

 先生は、バイブを逆手に持った。
 時代劇の女性が、自害する所作にも見えた。
 切っ先が、陰唇をなぞる。
 陰唇の襞が、茹で肉のように震える。

「はぅ」

 紅色の刃が、あらかじめ穿たれた傷に潜りこんだ。

「あぁ、いぃ。
 やっぱり馴染みの子は、襞の数まで覚えてるわ」

 先生は、幾度もバイブを突き立てた。
 紅色の刀身は、静脈血を噴き出してるようにも見えた。

「おっと、危ない。
 危うく夢中になるとこだった。
 一緒にクリ弄ってたら、止められなかったわ」

 先生は、名残を惜しむみたいに視線を泳がせながら、バイブを引き抜いた。
 体内から、紅色の抜き身が現れる。

「ほら。
 湯気が立ってる」

 そのまま、丸い亀頭部を鼻先に翳した。

「臭いぃ」

 先生は、ブラウスの胸を起伏させながら、激しい呼吸をし始めた。

「美里も嗅いでみる?
 たまらないわよ。
 イヤじゃないでしょ?
 わたしの臭いなんだから。
 はは。
 こんなことしてたら、また乾いちゃうわね。
 こちらに、お待ちかねの人がいるのに」

 先生は、しゃがんだままのアヒル歩きで、理事長の元に身を移した。

「理事長。
 ほら、ぼーっとしないで。
 あの薬、2度効きするみたいね。
 大丈夫ですかー」

 先生は、ハムのように括られた太腿を、ペタペタと叩いた。

「反応なし?
 ふて寝かしら。
 それとも、頭打って、ほんとにバカになっちゃった?
 面白くないわね。
 まだ大事な質問が残ってるのに。
 嫌でも答えてもらいますからね」

 先生は、理事長の足元ににじり寄ると、バイブを構えた。
 亀頭を模した丸みが、無残に開かれた股間を覗いてる。

「ほら、頭が入っちゃうわよ。
 あ、スイッチ入れた方がいいか」

 先生が手元の電池ボックスを操作すると、騒々しい駆動音が立ち上がった。
 ブリキのロボットが動き出したような音だった。

「昔のオモチャは、この音が弱点よね。
 公園でしたときも、さすがにスイッチ入れる勇気は無かったわ。
 でもここなら、どんな音立てても、誰に聞こえるわけもないし。
 ほら、理事長。
 なんなら、声も出していいんですよ」

 先生は、生きもののように蠢き始めたバイブを、理事長の股間に翳した。
 亀頭がゆっくりと切っ先を下げ、恥丘に着地する。
 バイブに添えた指が反り、力が加わった。


「ほら、早く目を醒まさないと……。
 クリが擦り切れちゃいますよ」

 理事長の首が、大きく振れた。

「やっと起きたみたいね。
 理事長ー。
 何されてるかわかりますかー?」
「あ……、あぅ」
「いきなり喘ぎ声?
 その前に、感想いってちょうだいよ」
「や、止めて……」
「ウソおっしゃい。
 もっとしてもらいたいくせに。
 あ、ちょっとタンマ。
 もう一人の主演女優、バカに静かね」

 あけみ先生は、理事長にバイブを押しあてながら、川上先生を振り向いた。
 川上先生は、梁を背にぶら下がったままだった。
 完全に眠りこんではいないようだけど……。
 意識レベルが、かなり後退してるみたいだった。

「寝ちゃってる?
 中毒かしら?
 嗅がせすぎたかな。
 美里、ちょっと近くにいってみて。
 息してるわよね?
 下の方、漏らしてない?
 そう。
 そんなら大丈夫ね。
 余談だけど……。
 2時間ドラマなんかで、人を気絶させるシーンってあるでしょ?
 ハンカチで口を覆ってさ。
 どういう薬使ってることになってる?
 そうそう。
 クロロフォルムよ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。