放課後の向うがわⅡ-9


 先生は理事長を見返って、口角を上げた。

「岩城先生……。
 下ろして」
「じゃ、いい子でモデルになる?」

 先生は、おどけた仕草でカメラを構えた。
 理事長が顔を背けた。

「ほら、まだ素直じゃない。
 やっぱりお仕置きが必要ね」

 先生は壁際のシンクに歩み寄ると、透明な大きな箱を持ち上げた。
 大きさは、40センチ、いやもう少しあったかな?
 サイコロみたいな立方体。
 上部の一面だけが空いてるから……。
 つまりは箱ね。

「何だと思う?
 これ、水槽なのよ。
 フレームレスで綺麗でしょ。
 アクリル製だから、軽いし。
 部屋の奥で見つけたの。
 これもきっと、理事長室のお下がりね。
 世話をサボって、魚が死んじゃったのかしら。
 で、現像用のバットにでも使えるかと思って、洗っておいたわけ。
 まさか、別の用途があったとはね」

 先生は両手で水槽を掲げたまま、歩き出した。
 マジックボックスを抱えるマジシャンのようだった。
 理事長の脇で立ち止まると……。
 水槽を床に置いた。
 そのまま、水槽の傍らにしゃがみこむ。
 熟れた桃みたいなお尻を、縄がT字に区画してた。

 先生は、床の水槽を、位置を確かめるように滑らせた。
 水槽は、吊るされた理事長の真下で止まった。
 先生は水槽から手を離すと、理事長を見あげた。
 口角が上がってた。
 理事長の目は、明らかに怯えてた。

「岩城先生……。
 何をするつもり?」
「とってもいいこと」

 先生は、ゆっくりと起ちあがった。
 視線が、理事長の体を這いあがる。

「ほんとに綺麗な体。
 匂いもいいし」

 先生は、理事長の脇腹に鼻先を付けた。
 理事長が身を捩ると、見事な腹筋が浮きあがった。

「いったいこの身体で、何人の男を言いなりにさせて来たのかしら?
 そうそう。
 あの現場監督も、色仕掛けで丸め込めばよかったのに。
 理事長が勝手な命令を言い放って出てくとき……。
 あの現場監督、凄い目で理事長の後ろ姿を見てたわ。
 怒りももちろんだったでしょうけど……。
 わたしには、それ以外の情動も感じられた。
 そう。
 理事長のお尻に、食いこむみたいな視線だった。
 あのとき、彼の頭の中では……。
 このお尻に、おちんちん突っこんでたのかも?
 ほら、この張り」
「触らないで!」
「さすがですわね。
 逆さに吊られながらも、まだ命令口調。
 生まれながらに染み付いた性格は、変えられないってことかしら。
 そうだ。
 あの現場監督、ここに呼ぼうかしら。
 携帯番号、聞いてあるのよ。
 誰かさんのおかげで、頻繁に連絡が必要だったから。
 番号変えて無ければ……。
 まだ繋がるわよね。
 美里ちゃん。
 わたしのスカートから、携帯取って」
「止めて!」
「こんな姿、見せたくない?
 ふふ。
 この格好じゃ、頭ごなしに命令できないものね。
 でも、もし彼が理事長のこの姿みたら……。
 ほんとに、どうするかしら?
 そうそう。
 ここに呼びつけておいて……。
 わたしたち2人は、隠れてるの。
 入ってきた現場監督は、驚くわよね。
 あの憎っくき敵が、逆さに吊るされてるんですもの。
 どうするかしら?
 まずは……。
 乳首を捻りあげる?
 こんなふうに」
「ひぃっ。
 い、痛い」
「あんまり暴れると、縄が切れるって言ったでしょ。
 縛られたまま頭から落ちたら、無事には済まなくてよ。
 それから監督は……。
 どうすると思う?
 美里、あなたならどうする?」

 いきなりそんな問いを振られても、答えるすべもなかった。
 こんなシチュ、考えたことさえ無いんだから。

「ほら、質問に答える」
「わかりません」
「つまらない子ね。
 ちょっとは、想像力を働かせなさい。
 わたしが監督だったら、そうね……。
 やっぱりまず、ちんちん出すかしら。
 ジッパー開けて。
 いえ。
 それじゃ、つまらないわ。
 やっぱ、下半身は素っ裸よ。
 作業着のズボンと、パンツを脱ぐ。
 シャツの下に、引き締まったお尻が見える。
 きっと、割れ目にまで毛が生えてるわね。
 で、前の方は……。
 シャツの合わせ目を分けて、男根が屹立してる。
 亀頭は天井を指し、電球の明かりが映るほど張り詰めてる。
 で、そのちんちんを……。
 突っこむのよ。
 この憎らしい口に」

 あけみ先生は、理事長の顔に手を伸ばした。
 逃げる唇に指を入れ、ほっぺたを吊り上げる。
 理事長は、懸命に首を振って逃げようとする。

「人形との違いは、まさにここよね。
 これが醍醐味。
 抵抗するものを屈服させる悦び。
 現場監督は……。
 逃げまわる顔を、両手で挟みこんで固定するわ。
 でも、口を閉じられてたら、突っこめないわよね。
 どうするかしら。
 鼻を摘むとか?
 こんなふうに」

 理事長は苦しげに首を振った。
 でも、あけみ先生の指からは逃れられなかった。

「ほら、口が開いた。
 ここで突っこむ。
 でもねぇ。
 ほんとに綺麗な歯並び。
 歯茎もピンクで健康そのものよね。
 きっと、噛む力も強いでしょうね。
 この歯で挟まれたら、ヤワな海綿体なんてひとたまりもないわ。
 千切れちゃうよね」

「男女間の行為の一つにイラマチオってのがあるけど……。
 美里、知ってる?
 知らないの?
 ほんと、奥手ね。
 男性が、ちんちんを女性の口に突っこんで、腰を振るわけよ。
 女性の頭を手で固定しておいて、挿出は男性が行うの。
 この行為を……。
 レイプ系のAVで見ることがあるけど……。
 現実に出来るとは思えないわ。
 だって、噛まれたらひとたまりも無いのよ。
 虎の口の中に頭を差し入れる芸があるけど……。
 あれと同じくらい危険なこと。

 実際、こんなことがあったんだって。
 新婚夫婦の初夜。
 新婚旅行の初日のホテルよ。
 昔のことだから、婚前交渉も無くて……。
 しかも、童貞と処女。
 新郎の頭は、ついに出来るという興奮で、沸騰しまくり。
 やらしい知識だけは、山のように仕入れてあったから……。
 いきなり新婦の口に突っこんだ。

 経験が無いから、加減ってものがわからないでしょ。
 ま、ひょっとしたら、新郎くんのが短かったからかも知れないけど……。
 先っちょが、ノドの奥まで届いたのね。
 そうなると……。
 新郎の陰毛が、新婦の鼻の穴を刺激するわけ。
 新婦は、懸命に我慢したんだけど……。
 とうとう、堪え切れずに……。
 大くしゃみ。
 くしゃみすると、どうなると思う?
 口が閉じるのよ。
 ちんちん咥えたままね。

 結果は……。
 あまりにも悲惨。
 阿部定よ。
 新郎くんのちんちんは……。
 千切れちゃったの。
 新婦のまんこを、一度も堪能することなくね。

 つまり。
 女性の口中をちんちんで犯すなんて芸当は……。
 絵空事ってわけ。
 ほほ。
 また脱線したわね。
 何言おうとしてたんだっけ?
 そうそう。
 下半身丸出しにした現場監督の話よ。
 彼は、新郎くんと違って、ある程度経験は積んでるだろうから……。
 天敵の口に、いきなりちんちん突っこむなんて真似はしない。
 でも、この顔見たら……。
 入れたくなるわよね。
 どうすると思う?
 首ばっかり振ってないで、ちょっとは考えなさいよ」

「つまり、口は意志で閉じるものだから……。
 その意思が働かないようにすればいい。
 すなわち。
 気絶させればいいわけ。
 こんなに無防備にぶら下がってるんだから……。
 簡単なことよ。
 首を締めればいい。
 こんなふうにするのかな?」

 あけみ先生は、両手を理事長の首に回した。

「や、止めて!」

 理事長が身をうねらせる。
 縄を渡した梁が軋む。
 あけみ先生の両手に、力がこもった。

「う。
 うぐ」

 理事長の全身が、海老のように跳ねた。
 あけみ先生が、両手を離した。

「げほ。
 げほ」

 理事長が激しく咳きこむ。

「苦しい?
 おかしいなぁ。
 気持よくなるはずなんだけど。
 気管を塞いじゃうからかな。
 頸動脈だけ押さえればいいのか。
 ま、いいわ。
 気持よく失神されたんじゃ、面白くないから。
 でも、あの現場監督は、力がありそうだったから……。
 締められたら、あっという間に気絶できたかもよ。
 そうそう。
 手じゃなくて、タオルで締めればいいんだ。
 あの人、いつも首にタオル巻いてたものね。

 汗臭いタオルを、この華奢な首に巻いて……。
 思い切り締める。
 もう、悦びの局地なんじゃない?
 脳天から沸騰するような激情に駆られて……。
 渾身の力を籠めるわね。

 たちまち理事長の瞳が裏返る。
 頭の重みで、口が開く」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は7/13まで連続掲載、以後毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。