放課後の向うがわⅡ-14


先生は、長い旅から帰ったように、ほっと息を継いだ。

「理事長。
 いかがでした?
 面白い話だったでしょ?」
「お願い……。
 もう、下ろして……」
「乗りの悪い人ね。
 長話したら、ノド乾いちゃった。
 理事長。
 プールのお水、ちょっといただきますわね」

 あけみ先生は、水槽を抱えこむように、その場にしゃがみこんだ。
 折り畳まれた両脚は、水槽を挟んで大きく開いてる。
 相臀の尖りが床を指し、Wの文字を象ってる。
 その中央を、区画線のように縄が渡ってた。

 先生は、両手を水槽の縁にかけ、顔を水面まで突っ伏した。
 水を飲んでるらしい。
 お尻が少し上がり、股間まで覗けた。
 捲れあがった陰唇が、縄を咥えこんでる。
 猿轡された口元みたいにも見えた。

「ぷふぁ」

 先生が、ようやく顔を上げた。

「あー美味しい。
 ちょっとだけ、理事長のお化粧の味がしますけど」

 先生は水槽を抱えたまま、理事長を見上げた。

「理事長も、お飲みになります?
 ノドが乾いたでしょ?」

 理事長は、顔を歪めただけで応えなかった。

「素直じゃないわねぇ」

 先生は、声とともに起ちあがった。
 両手が押し離した水槽が、水面を揺らすほどの勢いだった。

「嫌でも飲んでもらいますわ。
 でも、一回頭が沈んだせいで、だいぶ水が減っちゃったわね。
 ちょっと足そうか。
 美里ちゃん、水道。
 あ、待って。
 いいこと、思いついた。
 美里、こっち来て。
 あなた、おトイレ行きたくない?
 おしっこよ。
 出ない?
 仕方ないわね。
 じゃ、わたしがしようか。
 水飲んだら、少し催したみたいだし」

 先生は、その場で股縄を解き始めた。

「股縄で不便なのは、おトイレなのよね」

 そう言いながらも、先生の指先は滞りなく動き、瞬く間に縄は解かれた。
 白い肌には、縄目がくっきりと印されてた。
 先生の手の平からは、縄が、呪文が解けたみたいに下がってる。
 先生は、無造作に縄を束ねると、自らの首に掛けた。
 縄の首飾りを下げた先生は、古代の女王のようにも見えた。

「さてと。
 どうしようかな。
 おトイレはあるんだけど……。
 邪魔者がぶら下がってるのよね。
 美里、ちょっと水槽押してみて」

 満々と水を湛えた大きな水槽は、ちょっと押したくらいでは動かなかった。

「ダメみたいね。
 いいよ。
 無理に動かしたら、また戻すのがタイヘン。
 邪魔者は、わたしが抱えればいいんだから」

 先生は、水槽ににじり寄ると、理事長の身体を抱えた。

「ふふ。
 暖かい。
 理事長、生きてますね。
 人肌って、どうしてこんなに愛しいのかしら」

 先生は、水槽を跨ぐ形で歩を進めた。
 理事長の身体が斜めに傾ぎ、頭が水槽を外れた。
 代わりに、先生のお尻が水槽の真上を占めた。

「理事長、そんなに動かないの」

 理事長は、懸命に首を動かそうとしてた。
 だって、顔が、先生の股間に埋もれたから。

「そんなに動かないでって。
 また、気分出ちゃうじゃありませんか。
 暴れると、このまま出しちゃいますよ」

 暴れるなと言っておきながら、先生は理事長の頭を両腿で挟みこんだ。
 真後ろに立つわたしには、先生のお尻から、理事長の額が覗いて見えた。
 大人を産み落とす、グロテスクな出産シーンのようだった。

「あー。
 このまま、後ろから犯されたら最高よね。
 美里、あなた、ちんぽ持ってない?
 わたしが魔法使いだったら、すぐさまあなたにちんぽ生やすんだけど。
 あぁっ。
 理事長、顔動かさないでって。
 感じちゃうじゃないの。
 ほんとに、このまま出しちゃおうかな。
 ほほ。
 うそうそ。
 だから、そんなに暴れないの」

 先生は、理事長を抱えたまま、ゆっくりと腰を落とす。
 理事長の額が、先生のお尻に隠れた。

「美里、前回って。
 位置を見てちょうだい。
 ちゃんと便器に、照準合ってる?」

 言われるままに、理事長の背後に回る。
 後ろから見たオブジェは、いっそう異様なフォルムだった。
 先生の上体は、理事長の体に隠れ、ほとんど見えない。
 でも両脚が、理事長の頭から、左右に開いて出てる。
 一瞬、千手観音の姿が脳裏に浮かんだ。
 手じゃなくて、脚を頭から生やした観音様。

「どう?
 合ってる?」

 見えなかった。
 黒い瀧のように落ちる髪が、先生の股間を隠してたから。

「髪が……」
「あ、そうか」

 先生は、理事長の頭を探ると、髪を束ねて持ちあげた。

「あ」

 見えた。
 お臍は、理事長の頭に隠れてたけど……。
 下腹部の中央を真っ直ぐに下りる縄目の跡は、くっきりと見えた。
 そして、その下。
 さっき縄を解いたときには、萎んだ花のようだった陰唇が……。
 捲れあがって開いてた。
 湯煎した肉のような襞々から、雫が垂れてる。
 真っ赤な膣前庭まで覗いて見えた。

「どうよ?
 位置」
「あ……、いいと思います」
「ちゃんと見ててよ。
 わたしのおまんこが、おしっこ出すとこ」

 先生の太腿に、強張りが走った。
 膣前庭がうねり、黒々と穿たれた尿道口が、息づくように膨れた。
 刹那……。
 溶け崩れた花芯が、水流を噴き出した。
 水流が水槽の縁を叩き、プラスチッキーな音が立った。
 先生は、すぐさま腰を引き、角度を調節した。
 音は、水が水を穿つ、くぐもった響きに変わった。
 水の柱が、水中に突き刺さってる。
 生まれた無数の小さな泡が、先を争って水面に向かった。
 透明なフレーム越しに見えた、不思議な水の饗宴。
 でもそれは、あっという間に終わった。

「あー、出た。
 どう?
 ちょっとは、色、着いて見える?」

 あけみ先生は、理事長を抱えたまま上体をひねり、水面を覗きこんだ。

「ほとんど、わかんないわね。
 こんなことなら、アリナミン飲んどけば良かった。
 ビタミンB2剤飲むと、おしっこが黄色くなるの知ってる?
 栄養ドリンクでもいいのよ。
 おしっこプレイするときには、やっぱり濃いヤツがほしいものね。
 ま、出しちゃったものは、しかたないっと」

 先生は、理事長を抱えながら後退した。
 理事長の身体が鉛直になったところで、身を離す。
 位置の戻った反動で、理事長はふらふらと揺れた。

「あー、気持ちいぃ。
 おしっこの雫が、太腿の内側を伝うのって、ほんとゾクゾクものよね。
 虫が這ってるみたい。
 美里も今度、やってごらん。
 パンツ穿かないでトイレに行けばいいのよ。
 でもって、拭かないで起ちあがる。
 ツツーって、雫が伝うから。
 背筋までゾクーって来る。
 駅のトイレとかがいいのよ。
 その後、太腿を濡らしながら街を歩くの。
 雨の日なら……。
 トイレ使わないで、歩きながらおしっこしてもいいわ。
 地面が濡れてるから、ぜったいバレないわよ」

 先生は、膝を割って開いてた両腿を、ぴったりと閉じた。
 両膝が着いた。
 足先は少し開いたままだったから、下半身は細身のX型に窄まった。
 先生は、お尻を突き出すようにしながら、両腿を摺り合わせ始めた。

「あぁぁ、いぃ。
 おまんこが、いくらでも雫を垂らすわ。
 このままイッちゃえそう」

 上体を屈めた先生は、顔だけ持ちあげ、理事長を見た。

「でも……。
 お待ちかねですよね。
 あんまり、待たせちゃ悪いから……。
 お楽しみは、取っときましょう」

 先生の両脚が、真っ直ぐに伸びた。
 スカートの似合いそうな、綺麗な脚だった。
 その脚で踵を返すと、先生は作業台の脇に戻った。

「理事長。
 わたしのおしっこ入りのプール、味わっていただきますよ」

 先生は、手を掛けたハンドルを、ゆっくりと戻した。
 吊るされた理事長が、下がっていく。
 理事長は顔を歪め、腹筋を使って上体を起こそうとした。
 そこで、理事長の下降は止まった。
 先生を振り返ると、ハンドルの手が止まってた。
 慈母のようにも見える微笑みを湛え、じっと理事長を見てる。

「く……」

 理事長の体側に浮きあがった腹筋が、さざ波を立て始めた。

「あぁ」

 力を使い果たした上体が戻り、理事長は真っ直ぐに下がった。
 その瞬間を、先生は逃さなかった。
 ハンドルが一気に廻り、理事長の頭は水没した。

「ごぼ」

 理事長の腹筋が、再び収縮したけど……。
 もう、間に合わなかった。
 水没した顔面はフレームに阻まれ、逃げ道は無かった。
 はかない抵抗を、2,3度繰り返した後……。
 理事長の腹筋が伸びた。
 耳の下まで浸かった顔が、わたしの方を向いてた。
 両目は、筆で描いたように閉じてる。
 上唇は捲れてた。
 齧歯類みたいな綺麗な白歯が覗いてる。
 背中から見える手の指は、眠る赤ん坊のように空気を握ってる。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。