放課後の向うがわⅡ-9

 先生は理事長を見返って、口角を上げた。

「岩城先生……。
 下ろして」
「じゃ、いい子でモデルになる?」

 先生は、おどけた仕草でカメラを構えた。
 理事長が顔を背けた。

「ほら、まだ素直じゃない。
 やっぱりお仕置きが必要ね」

 先生は壁際のシンクに歩み寄ると、透明な大きな箱を持ち上げた。
 大きさは、40センチ、いやもう少しあったかな?
 サイコロみたいな立方体。
 上部の一面だけが空いてるから……。
 つまりは箱ね。

「何だと思う?
 これ、水槽なのよ。
 フレームレスで綺麗でしょ。
 アクリル製だから、軽いし。
 部屋の奥で見つけたの。
 これもきっと、理事長室のお下がりね。
 世話をサボって、魚が死んじゃったのかしら。
 で、現像用のバットにでも使えるかと思って、洗っておいたわけ。
 まさか、別の用途があったとはね」

 先生は両手で水槽を掲げたまま、歩き出した。
 マジックボックスを抱えるマジシャンのようだった。
 理事長の脇で立ち止まると……。
 水槽を床に置いた。
 そのまま、水槽の傍らにしゃがみこむ。
 熟れた桃みたいなお尻を、縄がT字に区画してた。

 先生は、床の水槽を、位置を確かめるように滑らせた。
 水槽は、吊るされた理事長の真下で止まった。
 先生は水槽から手を離すと、理事長を見あげた。
 口角が上がってた。
 理事長の目は、明らかに怯えてた。

「岩城先生……。
 何をするつもり?」
「とってもいいこと」

 先生は、ゆっくりと起ちあがった。
 視線が、理事長の体を這いあがる。

「ほんとに綺麗な体。
 匂いもいいし」

 先生は、理事長の脇腹に鼻先を付けた。
 理事長が身を捩ると、見事な腹筋が浮きあがった。

「いったいこの身体で、何人の男を言いなりにさせて来たのかしら?
 そうそう。
 あの現場監督も、色仕掛けで丸め込めばよかったのに。
 理事長が勝手な命令を言い放って出てくとき……。
 あの現場監督、凄い目で理事長の後ろ姿を見てたわ。
 怒りももちろんだったでしょうけど……。
 わたしには、それ以外の情動も感じられた。
 そう。
 理事長のお尻に、食いこむみたいな視線だった。
 あのとき、彼の頭の中では……。
 このお尻に、おちんちん突っこんでたのかも?
 ほら、この張り」
「触らないで!」
「さすがですわね。
 逆さに吊られながらも、まだ命令口調。
 生まれながらに染み付いた性格は、変えられないってことかしら。
 そうだ。
 あの現場監督、ここに呼ぼうかしら。
 携帯番号、聞いてあるのよ。
 誰かさんのおかげで、頻繁に連絡が必要だったから。
 番号変えて無ければ……。
 まだ繋がるわよね。
 美里ちゃん。
 わたしのスカートから、携帯取って」
「止めて!」
「こんな姿、見せたくない?
 ふふ。
 この格好じゃ、頭ごなしに命令できないものね。
 でも、もし彼が理事長のこの姿みたら……。
 ほんとに、どうするかしら?
 そうそう。
 ここに呼びつけておいて……。
 わたしたち2人は、隠れてるの。
 入ってきた現場監督は、驚くわよね。
 あの憎っくき敵が、逆さに吊るされてるんですもの。
 どうするかしら?
 まずは……。
 乳首を捻りあげる?
 こんなふうに」
「ひぃっ。
 い、痛い」
「あんまり暴れると、縄が切れるって言ったでしょ。
 縛られたまま頭から落ちたら、無事には済まなくてよ。
 それから監督は……。
 どうすると思う?
 美里、あなたならどうする?」

 いきなりそんな問いを振られても、答えるすべもなかった。
 こんなシチュ、考えたことさえ無いんだから。

「ほら、質問に答える」
「わかりません」
「つまらない子ね。
 ちょっとは、想像力を働かせなさい。
 わたしが監督だったら、そうね……。
 やっぱりまず、ちんちん出すかしら。
 ジッパー開けて。
 いえ。
 それじゃ、つまらないわ。
 やっぱ、下半身は素っ裸よ。
 作業着のズボンと、パンツを脱ぐ。
 シャツの下に、引き締まったお尻が見える。
 きっと、割れ目にまで毛が生えてるわね。
 で、前の方は……。
 シャツの合わせ目を分けて、男根が屹立してる。
 亀頭は天井を指し、電球の明かりが映るほど張り詰めてる。
 で、そのちんちんを……。
 突っこむのよ。
 この憎らしい口に」

 あけみ先生は、理事長の顔に手を伸ばした。
 逃げる唇に指を入れ、ほっぺたを吊り上げる。
 理事長は、懸命に首を振って逃げようとする。

「人形との違いは、まさにここよね。
 これが醍醐味。
 抵抗するものを屈服させる悦び。
 現場監督は……。
 逃げまわる顔を、両手で挟みこんで固定するわ。
 でも、口を閉じられてたら、突っこめないわよね。
 どうするかしら。
 鼻を摘むとか?
 こんなふうに」

 理事長は苦しげに首を振った。
 でも、あけみ先生の指からは逃れられなかった。

「ほら、口が開いた。
 ここで突っこむ。
 でもねぇ。
 ほんとに綺麗な歯並び。
 歯茎もピンクで健康そのものよね。
 きっと、噛む力も強いでしょうね。
 この歯で挟まれたら、ヤワな海綿体なんてひとたまりもないわ。
 千切れちゃうよね」

「男女間の行為の一つにイラマチオってのがあるけど……。
 美里、知ってる?
 知らないの?
 ほんと、奥手ね。
 男性が、ちんちんを女性の口に突っこんで、腰を振るわけよ。
 女性の頭を手で固定しておいて、挿出は男性が行うの。
 この行為を……。
 レイプ系のAVで見ることがあるけど……。
 現実に出来るとは思えないわ。
 だって、噛まれたらひとたまりも無いのよ。
 虎の口の中に頭を差し入れる芸があるけど……。
 あれと同じくらい危険なこと。

 実際、こんなことがあったんだって。
 新婚夫婦の初夜。
 新婚旅行の初日のホテルよ。
 昔のことだから、婚前交渉も無くて……。
 しかも、童貞と処女。
 新郎の頭は、ついに出来るという興奮で、沸騰しまくり。
 やらしい知識だけは、山のように仕入れてあったから……。
 いきなり新婦の口に突っこんだ。

 経験が無いから、加減ってものがわからないでしょ。
 ま、ひょっとしたら、新郎くんのが短かったからかも知れないけど……。
 先っちょが、ノドの奥まで届いたのね。
 そうなると……。
 新郎の陰毛が、新婦の鼻の穴を刺激するわけ。
 新婦は、懸命に我慢したんだけど……。
 とうとう、堪え切れずに……。
 大くしゃみ。
 くしゃみすると、どうなると思う?
 口が閉じるのよ。
 ちんちん咥えたままね。

 結果は……。
 あまりにも悲惨。
 阿部定よ。
 新郎くんのちんちんは……。
 千切れちゃったの。
 新婦のまんこを、一度も堪能することなくね。

 つまり。
 女性の口中をちんちんで犯すなんて芸当は……。
 絵空事ってわけ。
 ほほ。
 また脱線したわね。
 何言おうとしてたんだっけ?
 そうそう。
 下半身丸出しにした現場監督の話よ。
 彼は、新郎くんと違って、ある程度経験は積んでるだろうから……。
 天敵の口に、いきなりちんちん突っこむなんて真似はしない。
 でも、この顔見たら……。
 入れたくなるわよね。
 どうすると思う?
 首ばっかり振ってないで、ちょっとは考えなさいよ」

「つまり、口は意志で閉じるものだから……。
 その意思が働かないようにすればいい。
 すなわち。
 気絶させればいいわけ。
 こんなに無防備にぶら下がってるんだから……。
 簡単なことよ。
 首を締めればいい。
 こんなふうにするのかな?」

 あけみ先生は、両手を理事長の首に回した。

「や、止めて!」

 理事長が身をうねらせる。
 縄を渡した梁が軋む。
 あけみ先生の両手に、力がこもった。

「う。
 うぐ」

 理事長の全身が、海老のように跳ねた。
 あけみ先生が、両手を離した。

「げほ。
 げほ」

 理事長が激しく咳きこむ。

「苦しい?
 おかしいなぁ。
 気持よくなるはずなんだけど。
 気管を塞いじゃうからかな。
 頸動脈だけ押さえればいいのか。
 ま、いいわ。
 気持よく失神されたんじゃ、面白くないから。
 でも、あの現場監督は、力がありそうだったから……。
 締められたら、あっという間に気絶できたかもよ。
 そうそう。
 手じゃなくて、タオルで締めればいいんだ。
 あの人、いつも首にタオル巻いてたものね。

 汗臭いタオルを、この華奢な首に巻いて……。
 思い切り締める。
 もう、悦びの局地なんじゃない?
 脳天から沸騰するような激情に駆られて……。
 渾身の力を籠めるわね。

 たちまち理事長の瞳が裏返る。
 頭の重みで、口が開く」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は7/13まで連続掲載、以後毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


大葉さくら×緊縛桟敷

大葉さくら杉浦則夫緊縛桟敷にて掲載開始。
体の柔らかい女にはどことなく色気を感じる、大葉さくらにはそのうえ猥褻な色気をただよわす、デジタルカメラになってからカットを撮影するたびに画像確認のデスプレーを見るのであるが、そこに写るさくらの姿は実物とはちがった猥褻な存在感が写る、尻から太もものふくよかな線はやや短足な脚にありアンバランスな崩れた美というか、緊縛写真をもっとも撮りやすい体つきだ。さくらには受縛の経験がまだほとんどないらしい、顔の表情を写真的に作るという事はむりであるが、むしろ自然なままにある表情で充分と思い撮影をする。さくらを受縛すきな女に仕上げる熟練な調教師に任せれば、さくらは確実に麻薬患者が薬を求めるように緊縛のあじを知るところとなると思われる、そんな体になったときもう一度撮影してみたいとそそられる女だ。

蚊帳のうちには暑い空気のよどみに女の体臭がまざり、寝苦しい夜であるならば、たがいに求める色事はひとつになる、さくらはまだ充分に縄の味を知らない女であるが今夜ばかりは燃え尽きたい欲望が体の芯からおこっている、かたく興奮しきった乳房に吊り縄がぐいと責めたてると「キィー」と唇をかみしめながら吐息と一緒にもらしたさくらのさけびには痛みとともに快感のひびきを聞いた、私はこの子の性癖の未来をみたようなきがする。

7月30日の東京は朝から30度を超す熱気であった、わがクルーは高齢者が多い、水分補給をこまめにしながらのりきる、お疲れ様のビールがキィーンとのどをうるおした一日でした。

大葉さくら杉浦則夫緊縛桟敷にて掲載開始。

放課後の向うがわⅡ-8

「理事長、この子、憶えてます?」
「……」
「残念ね、美里。
 どうやらあなた、記憶に残ってないみたい。
 もっとも、そんな格好だもんね。
 下半身裸の女生徒なんて、記憶の中の顔と繋がらないかも。
 理事長。
 ちょっと前に、転入生の面接をなさったでしょ。
 その子ですよ」
「岩城先生。
 どうして……。
 どうしてその子まで」
「あらやだ。
 わたしが、この子をどうにかしたとでも?
 この子は、自分でパンツまで脱いだんですよ。
 わたしと同んなじ姿になりたいって。
 それに……。
 理事長を吊り上げたのも、この子なんです」
「そんな……」

 理事長と目が合った。
 わたしは、かぶりを振った。
 確かに吊り上げたのはわたしだけど……。
 吊り荷が理事長だったなんて、知らなかったんだもの。

「ほら、美里。
 見てごらん、このお腹。
 スゴい括れでしょ」

 背中で両腕を戒めてる縄が、ウェストの両脇から前に回ってた。
 縄は、張り出した腰骨に食いこみながら絞られ、股間で1本に束ねられてる。
 撚れ絡む縄は、そのまま脚の間を通って、梁まで伸びてた。
 つまり、理事長の全体重が、その縄の束に掛かってる。
 キツく食いこむ縄で、理事長のお腹は、V字を逆にした形に括れてた。

「ほら、この腹筋」

 先生の指が、理事長のヘソの脇をなぞった。

「あぅっ」

 理事長の身体がうねり、縄を渡した梁が軋んだ。
 お臍を挾んで両側に、筋肉の割れ目が浮きあがった。

「さすがね。
 水泳や乗馬で鍛えてらっしゃるから。
 女性のこんなお腹、初めて見たわ」
「く、苦しい……。
 下ろして」
「眠らされてる間に縛られて……。
 気がついたら逆さ吊り。
 さぞ、驚いたでしょうね。
 でも、縛るの、けっこうタイヘンだったんですよ。
 縛りってのは、縛られる側の協力が無いと、とっても難しいの。
 やっと完成したオブジェなんだから……。
 そう簡単には下ろせません。
 美里、カメラ取って来て」

 先生は、壁際のテーブルを指さした。
 例の、ポラロイドカメラが置かれたテーブル。
 先生の指先を辿った理事長の視線が、わたしを向いた。

「あなた、止めて。
 止めさせて!」
「あら、理事長先生。
 この子の名前、覚えてらっしゃらないの?
 こないだ、面接したばっかりでしょ?」
「ミサトさん、お願いだから、止めて」
「はは。
 名前の方は、さっきわたしが呼んでたものね。
 苗字は?」
「……、ごめんなさい」
「美里、カメラ。
 出来上がりを、モデルさんにも見て欲しいから……。
 ポラロイドね」

 わたしは、縋りつく理事長の視線を逃れるように、後ずさった。
 視線の呪縛を逃れると、身を翻して、デスク前に立った。
 ポラロイドカメラは、厚い洋書みたいな形に折り畳まれてた。
 銀色の躯体に、茶色い革が張られてる。
 取り上げると、ずっしりと重い。
 わたしは、冷たいカメラを胸元に抱きしめた。
 あの、木造校舎の記憶を抱くように。

「何してるの。
 早く持って来て」

 胸元に乳飲み子を抱えるようにして、先生の元に戻った。
 なぜ、理事長ではなく、あけみ先生の言うことを聞いたのか……。
 わたしにも、よくわからない。
 でも、あの放課後の向うがわにあった世界が……。
 あのときのわたしを支配してた。
 だから、あの世界を一緒に体験した先生が、わたしにとっては特別な人だったのかも。

 先生は、わたしからカメラを受け取ると……。
 お弁当箱にライターが貼り付いたみたいな出っ張りに手をかけた。
 その出っ張りを、マジシャンみたいな手つきで引き上げると……。
 折り畳まれてたカメラは、一瞬にして立体的なフォルムを獲得した。

「今日は、ストロボも要るわね。
 美里、机の引き出し。
 早く行って。
 そう、そこの一番上。
 それそれ。
 今、手に取ったやつ。
 持ってきて」

 それは、薄青い、アイスキャンディみたいな形をしていた。
 キャンディの中に、電球が並んでる。

「フラッシュバーって云うのよ」

 先生は、バーを電球にかざした。

「綺麗でしょ。
 電球が、裏と表に5つずつ並んでる。
 この電球はね……。
 発光すると、ひとつずつ潰れるの。
 つまり、10回しか使えないストロボね。
 儚ないっていうか、潔いいって云うか……。
 昔の機械って、愛しいよね。
 ポラロイドのフィルムだって……。
 間違ってシャッター押したら、1枚使っちゃうわけだし」

 先生は、キャンディみたいなバーを、カメラの上に、横向きにセットした。
 バーの長さはカメラの横幅と同じだった。
 儚い電球を装着したカメラは、オモチャのロボットみたいに見えた。

「さ、モデルさん。
 カメラの準備が出来たわよ。
 こっち向いて」
「いや……」

 理事長は、カメラから顔を背けた。
 逆立った長い髪が揺れた。

「素直じゃないわね」

 先生は、背けた顔の方に回りこんだ。
 理事長の顔が、また逃げた。

「もう。
 さっきも言ったでしょ。
 このストロボ、無駄玉は打てないのよ。
 じっとして」

 もちろん、理事長はその言葉に従わなかった。
 先生の動く方向とは逆に、顔を振り向ける。

「頭にきた。
 そういう悪いモデルさんは、お仕置きね」

 先生は、構えてたカメラを下ろすと、理事長に近づいた。
 逆さに吊られた理事長は、顔を背けることは出来ても……。
 体ごと捻ることは出来ない。
 もちろん、すぐ脇に立つ先生から逃れるすべはない。

「美里、こっち来てごらん。
 ほら、綺麗なおっぱい。
 でも、可哀想にね。
 こんなにひしゃげて」

 乳房の周りを、縄が締めつけてた。
 上下に幾筋も走る縄で、乳房は生クリームの絞り袋みたいに潰れてる。
 でも逆に、砲弾みたいな形に尖ってた。

「それほど大きくは無いけど……。
 ほんとに綺麗なおっぱい。
 乳首も、濃い目のファンデみたいな肌色だし。
 遊んでるはずなのにね。
 ほら、乳輪だって……。
 朧月みたい。
 綺麗な満月。
 なんだか、腹が立ってくるわね。
 理事長、このおっぱい、自慢なんでしょ?」

 先生は、理事長の顔を見下ろした。
 理事長は、顔を背けたままだった。

「答えない気?
 お立場がわかってらっしゃらないようね。
 逆さに吊られながら反抗的な態度を取ったら、どうなるか……。
 教えてさしあげますわ」

 先生の片手が、理事長の乳房に伸びた。
 指先が、乳首を摘む。
 力が籠もった。
 蛍が灯るように、爪が白く色を変えた。

「痛いぃぃ」

 理事長が髪を振り立てた。

「悪い子の乳首は、グリグリ」

 先生は、摘んだ指先を左右に捻った。
 そのまま、引っ張りあげる。

「ほーら、伸びちゃった。
 理事長、形が崩れちゃいますよ」
「止めてぇ」
「じゃ、言うこと聞きます?」

 先生の指先が、乳首を離れた。

「あれ?
 理事長。
 こっちの乳首、起ってません?」
「違います!」
「違わないわぁ。
 美里、ほら見てごらん。
 同じじゃないわよね。
 反対の乳首と」

 言われてみればって感じだけど……。
 引っ張られた乳首は、もう片方より突き出て見えた。

「起ってるでしょ」

 わたしは、思わずうなずいてた。

「ウソよ……」
「まだ、そんなこと言ってるの。
 そういう子には……。
 本格的なお仕置きが必要ね。
 いいこと思いついたわ」

 先生は、ウィンチの机の間を縫って、部屋の奥に向かった。
 電球から遠ざかった背中が、薄暗がりに沈んでいく。

「この部屋、ほんとに写真部の部室に打って付けなのよ。
 水が出るんですもの。
 現場監督に教えてもらったんだけど……。
 ここに、カウンターバーが付く予定だったらしいの。
 ほんとにふざけた理事会室よね。
 残念ながら、カウンターの搬入前に、工事が止まっちゃったけど……。
 シンクだけは、こうして付けられてたってわけ。
 さらに、この奥には……。
 いろんな楽しいガラクタが転がってるの。
 早い話、物置代わりに使ってるってことよね。
 不要になったガラクタが、ここに押し込められて来たわけ。
 3年も経てば、いろいろ集まるわよ。
 ほら、畳まであるんだから」

 先生の指の先は、壁際に立てかけられた畳を指してた。
 畳は、小部屋を敷き詰めるくらいの枚数があった。

「どうしてこのロココ調の建物に、畳があると思う?
 現場監督に設計図を見せてもらって、呆れたわよ。
 理事長室には、茶室があったのよ。
 現場監督には……。
 ヨーロッパで知り合った友人を招待するときに使う大事な部屋だって、得々と語ってたそうよ。
 早い話、驚かせて自慢したかったんでしょ。
 で、その茶室に一旦入れた畳を、総入れ替えしたのね。
 い草の色合いが気に入らないとかでさ。
 でもこの畳、サイズが微妙に市販品と違ってるらしいの。
 茶室って言っても、ロココ調の尖塔部分に、無理やりくっつけた部屋だから……。
 日本間の寸法とは違うのね。
 だから畳も、部屋に合わせた特注品ってこと。
 当然、返品も利かない。
 で、一部屋分の畳が無駄になっちゃったってわけ。
 サイズが違うから、茶道部の部室とかに払い下げるわけにもいかないし。
 結局この部屋に投げ込まれたまま……。
 せっかくのい草の色も、すっかり色褪せちゃったってわけ。
 ほんと、宝の持ち腐れってこのことよね。
 そうでしょ、理事長?」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は7/13まで連続掲載、以後毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


緊縛桟敷DVD・昭和緊縛史CD 新作発表

コンテンツ通販にて、杉浦則夫緊縛桟敷DVD-ROMの新作と、
昭和緊縛史CD-ROMの新作が2タイトルづつ発売開始となりました。

 ■緊縛桟敷DVD-ROM
 今回は雪中緊縛を行った美帆が収録されている78巻や
 川上ゆうから絶賛推薦されて出演した
 新谷彩夏が収録されている77巻です。




 ■昭和緊縛史
 大変長らくお待たせいたしました、
 今回の新作にも杉浦則夫撮影手記と
 皆様より頂いた情報をまとめた冊子が付録でついてきます。


放課後の向うがわⅡ-7

 先生は、もう一度瞳を伏せ、手首を返して時計を見た。
 時計を見詰めるメタルフレームの女教師。
 試験監督のようだった。
 ただし、上半身だけ見れば。
 なぜなら、その女教師の下半身は、剥き出しだったから。
 股間には、縄が食いこんでる。
 縄瘤が、肥大したクリトリスのようにも見えた。
 その下で潰されてる本物のクリを想ったとき……。
 わたしの股間が、堪らなく疼いた。
 思わず太腿を擦り合わせる。

「どうしたの?
 おしっこ?」
「い、いいえ」
「ふふ。
 てことは……。
 気分出ちゃってるわけね」
「……」
「そのまま、してみる?
 オナニー。
 見られながらって、スゴくいいわよ。
 転入初日……。
 あなたも、教壇に立って挨拶したでしょ。
 たとえばそのとき……。
 いきなりスカート下ろして、オナニー始めたら、なんて……。
 考えなかった?
 ない?
 ま、そうよね。
 転校生に、そんな余裕なんて無いわよね」

 内腿を、生温い液体が伝うのがわかった。
 命じてほしかった。
 オナニーしなさいって。
 でも先生は、笑窪だけ作って笑うと、視線を機械に戻した。

「こっち来て。
 座学はこれでお終い。
 ここからは、実習よ」

 わたしの脚は、内腿を摺り合わせるように、勝手に歩んだ。

「ほほ。
 スゴい格好ね。
 そんな中学生みたいな体型して、性欲は大人並みってこと?
 ま、あなたの資質は、14年前に見てるから……。
 驚きはしないけど。
 ほら、こっち来なさいって。
 女子高に『技術』の時間は無いけど……。
 今日は、特別講義ね。
 手動ウィンチの操作法。
 これ握って」

 先生は、ドラムの片側に付いたハンドルを指さした。
 ドラムの側面からは、ドラムに沿って金属のアームが伸び……。
 その先に、アームとは直角に、樹脂製らしい黒い握りが付いてる。
 ほんとに、巨大なリールみたいな形だった。

「そう。
 両手じゃなくても大丈夫よ」

 こんなもの握らせる先生の意図が、まったくわからなかった。
 まさか、本当にウィンチの講義じゃあるまいし。

「回してみて。
 逆。
 反対方向。
 そうそう。
 軽いでしょ」

 ハンドルは、軋むことも無く動いた。
 たっぷりと油が差されたような、滑らかな手触りだった。
 でも、ハンドルには、はっきりと荷重が感じられた。
 回すごとに、機械がカチカチと音を立てた。
 梁を渡るロープが、ぴんと張ってた。
 ロープの先は、ビニールシートに隠れてる。
 でもそこには、明らかに吊り荷がある。

「はい、まだよ、まだよ。
 回して回して」

 先生は機械の側を離れ、暗幕のように下がるシートの脇に立っていた。
 先生の位置からは……。
 シートの向うがわ、つまりわたしが引き上げてる吊り荷が、はっきりと見えるはず。

「もう少し」

 先生は片手を頭の脇まで上げ、巻きあげスピードを指示するように、指先を回した。
 下半身だけ剥き出しの姿で。
 わたしは思わず、自分の股間を見下ろしてた。
 真っ白な下腹部に、下向きに生えた陰毛。
 性器は見えない。
 そこがどうなってるかは、触らなくてもわかった。
 どうしようもないほど熱かったから。
 自ら熱を発し、熱い雫を零してる。
 太腿を、雫が伝ってた。
 触らなくてもわかってたけど……。
 触りたかった。
 いやらしく溶け崩れてるおまんこを、思い切り掻き回したかった。
 先生の目は、吊り荷に向いてる。
 片手を腰に当て、掲げたもう一方の手は、頭上で回転してる。
 まるで、工事現場の監督みたい。
 でも……。
 その下半身は裸。
 剥き出しの素っ裸なのよ。

 堪らなくなって、わたしの片手が、下腹部に伸びかけた。

「ストップ!」

 伸びかけた手が、火傷をしたように飛び退いた。
 でも、先生の目は、わたしを見てなかった。
 先生の制止は、ウィンチの巻き上げの方だったの。
 気がつくと、ウィンチから梁へ渡るロープは、さっきよりも強く張ってるみたいだった。
 梁から真下に下がるロープも、棒のように張り切ってる。
 吊り荷の重さを感じさせた。
 止めたハンドルに、心なしか重みを感じた。

「ハンドル、離しても大丈夫よ。
 自動ブレーキが掛かってるから、離しても戻らないの」

 わたしは、恐る恐る黒い握りから手を離した。
 電球の光を返す樹脂の肌に、わたしの汗が光って見えた。
 手を離しても、ハンドルは動かなかった。

「ウィンチの操作実技は、これでお終い。
 簡単でしょ。
 だれでも合格ね」

 先生はシートの向う側から、2,3歩戻ると、シート脇に立った。

「さーて。
 それじゃ、お披露目しましょうか。
 あなたが吊り上げた荷物を」

 先生の手が、ブルーシートに掛かった。
 わたしの瞳を確かめるように見ながら……。
 先生は、マジシャンの手つきでシートを引き下ろした。
 ゴワゴワした音を立てて、ブルーシートが外れると……。
 そこは、薄暗い舞台だった。
 舞台の真ん中に、何か下がってる。
 それがわたしが吊り上げた荷物だってことはわかった。
 でも、それが何なのか、わたしの脳は理解できなかった。
 吊り荷は、電球の光を浴びていた。
 肌色だった。
 一瞬、大きな肉のブロックでも下がってるのかと思った。
 でも、それも一瞬。

「うわっ」

 吊り荷が何なのか理解できた途端、わたしのお尻は、床まで落ちてた。

「そんなに驚いてもらえると、ほんとにやりがいがあるわ。
 わが写真部、専属のモデルさんよ。
 どう?
 あなたが吊り上げたのよ」

 ロープから下がってたのは、人だった。
 それが何か、一瞬理解できなかったのは……。
 その人が、逆さに下がってたから。
 天地が逆の人間を、脳が咄嗟に処理出来なかったんだね。

「綺麗でしょ?」

 若い女性だった。
 真っ裸の。
 いえ、正確に言うと、縄を纏ってた。
 首の後ろから回る縄目が、胸元で網のように拡がり、乳房を戒めてる。
 上下に走る縄で、乳房はひしゃげてた。

「誰だと思う?」

 わからなかった。
 その女性は、白い布地を噛み締めてたから。

「猿轡してちゃ、わからないか。
 前説してる間に喚かれるとぶち壊しだから……。
 静かにしてもらってたの。
 じゃ、取ってあげましょうね」

 先生は、天井から下がる女性に歩み寄り、わたしに背を見せた。
 オーバーブラウスの裾は、ウェストの下で途切れてる。
 丸々とした相臀が、ほしいままに見えた。
 日を浴びずに実った白桃みたいだった。

「苦しかったでちゅか?」

 先生は、女性の首を愛しむように抱いていた。
 生首を弄んでるようだった。
 女性は、イヤイヤをするように身じろいだ。
 でも、先生を突き放すことは出来ない。
 両腕が後ろに回ってたから。
 胸元に拡がる縄が二の腕にも渡り、腕肉が括れてた。
 背中の脇から、僅かに指先が覗いてる。

「今、外してあげまちゅからね」

 後ろ頭に回した先生の手が、結び目を解いてる。
 猿轡が引き絞られ、女性の口元が歪む。

「はい、解けました。
 それじゃ……。
 ご開帳」

 先生は女性を隠していた背中を翻し、わたしへの視界を開いた。
 片手には、白い布地が握られてた。
 女性の顔が、はっきりと見えた。
 でも、わからない。
 逆さになった顔なんて、普段見てないからかな。

「下ろしなさい!
 下ろして!
 お願い……」

 女性が声を上げた。
 その声で、逆さの顔と、記憶の中の顔が、瞬時に結びついた。
 全身が凍りついた。

「やっとわかったみたいね。
 そう。
 あなたも会ってるでしょ。
 転入試験の面接で。
 改めてご紹介するわ。
 当学園の理事長よ」

 理事長と目があった。
 もちろん、何も言えない。
 理事長の目も、事態を把握し切れてないみたいだった。
 わたしと合わせた目線はすぐに外れ、四囲に泳いでた。

「岩城先生。
 どうして?
 どうして、こんなことするの?
 お願いだから下ろして」
「光栄ですわ。
 理事長先生にお願いされるなんて。
 今までは、命令されたことしか無かったですものね」

 先生は、吊り下げられた理事長の周りを、ゆっくりと巡り始めた。
 出来あがった作品を検証する芸術家みたいだった。

「でも、理事長先生。
 ほんとに、素晴らしいスタイルでいらっしゃいますわ。
 もちろん、普段の着衣からも想像できましたけど。
 必要以上にぴったりしたお召し物でしたものね。
 でも、こうして裸になると……。
 想像してた以上。
 ほら、美里。
 こっち、いらっしゃい。
 間近で見てご覧なさい」

 わたしのお尻は、床に落ちたままだった。
 あけみ先生は、ヒール音を響かせて近づくと、わたしの腕を引っ張りあげた。
 人形なら、腕が取れてた。
 それほどの力だった。
 先生は、起きあがったわたしの腕を引き、理事長の前に立たせた。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は7/13まで連続掲載、以後毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。